2021年度までの研究により,①大卒・非大卒の学歴間不信の非対称性を明らかにするとともに,②教育機会の不平等認知が学歴間不信を増幅させるとの仮説を設定していた.これらを踏まえ,2022年度はまず,①の結果に対し,学歴間不信の非対称性が生じる理由として,学歴間(不)信頼が「意図への(不)信頼」と「能力への(不)信頼」の下位要素をもち,特に能力(不)信頼が非対称性に影響していると予想した.さらに,これまで検討してきた②の仮説をふまえ,学歴間での能力(不)信頼に影響し得るものとして,格差・競争意識に着目することで,「学歴間不信に対し,格差・競争意識はどのように影響しているか」を,2018年に実施した調査実験データから検証した.その結果,格差容認(競争支持)が強いときに,大卒者による大卒者への相対的信頼が高くなる傾向がみられた一方で,非大卒者の方は格差容認による学歴間信頼の差が小さかった.この傾向は,学歴以外の階層変数でも確認された.これらの分析結果から,「高階層者による格差容認→階層間の能力信頼」仮説を提示するに至った.同仮説の妥当性をさらに精査するための課題として,階層間の意図信頼モデルの検証や,低階層者による階層間信頼の原理解明(高階層者とは異なる説明)の必要があることも示された(数理社会学会で報告済み). これらの研究成果をふまえ,学歴を含む階層間信頼の下位構造(能力への信頼,意図への信頼,価値共有に基づく信頼,の3要素からなる)について検証する調査実験を新たに実施した.現在までの分析により,階層間信頼の3つの下位要素の間の相関構造,および,それらの3要素それぞれによって上位の階層間信頼が説明される程度が,学歴や他の階層変数によって異なることを明らかにしている.
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