本研究の目的は,集団を対象に継続的な社会調査を実施して,そのパネルデータを統計的社会ネットワークモデルにより分析することで,集団における社会関係資本の構成要素と機能間の循環的相互作用メカニズムを解明することである. 本年度には,コロナ渦の影響(当初の依頼対象集団群への調査が実現不可能になった)に対処するために,当初の計画書に記載した調査対象者を変更して,申請者の所属大学の学生を対象にウェブ上での集団調査を実施することで,パネルデータの収集・分析を行った.この調査では,社会関係資本のダイナミクスを検討するにふさわしい大学1年生の学部集団を対象に,大学入学後の春・夏・秋・冬の4期間それぞれにおいて,同一の調査を実施して,計4期のパネルデータを収集した.さらに,集団外部の社会関係資本を捉えるために,多様な集団に所属する人々との交流について,追加のインターネット調査を実行した.以上の分析結果については,成果報告書において詳述する. 上記の調査に加えて,災害後における近隣との社会関係資本のダイナミックパターンとその要因を解明するために,東日本大震災の被災者である大船渡市民を対象に,震災後10年に及ぶパネル調査データをGroup-based trajectory model (Nagin 1999; 2005)で分析した.その結果,おもに,①逆U字型パターン(災害後に一時的に増えて,その後に減少)と少数人数で安定して推移するパターンが情報交換ネットワークの顕著な特徴である一方で,U字型パターン(災害後に一時的に減って,その後に増加)が物々交換ネットワークに特有であり,②両ネットワークにおいて,災害後に被災者が近隣とのネットワークを増やすか否かは,災害以前の被災者間の相対的アドバンテージ(職業,収入,ジェンダー,年齢など)の格差に依存することが解明された.
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