研究課題/領域番号 |
19K20933
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
雪村 まゆみ 関西大学, 社会学部, 准教授 (00607484)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 世界遺産 / 日本遺産 / 文化財保護 / 観光 |
研究実績の概要 |
本研究では、文化庁による各自治体を対象に世界遺産候補の公募に応募した文化財に関して、その後、各地域において 世界遺産登録運動は継続されていくのか/ いかないのか等、いかにして文化財の価値体系のなかに位置づけられていくのか、考察する。2018年度は、その後の動向をホームページ等の追跡調査を行い、1. 登録運動を継続的に行っている場合、2.他の国内の認定制度の枠組みに位置づける場合、また、3.他の地域と連携する場合、4.世界遺産登録事業を一旦中止する場合と4カテゴリーに大別した。2019年度は、カテゴリー1で世界遺産登録に登録された百舌鳥・古市古墳群(大阪)における現地調査を行い、登録前後の変化を考察した。また、カテゴリー2、3に当たる旧閑谷学校(岡山)に着目し、近代教育資産としてのシリアル・ノミネーションで世界遺産登録が目指される方針が関係部局から示されていることを明らかにした。日本国内において文化財保護が行われてきたが、国際的な文化財の保護制度が浸透するなかで、新たな文化財のカテゴリー化やその強化が推し進められたことが明らかとなった。また、いかなる段階をオリジナルとして保存していくのか、という復元と保存という新たな問いについて問題定義した。2020年度は、カテゴリー1、2、3および4について、体系的に現状を明らかにするために、調査対象となる各担当部局を自治体ホームページ等を参照しながらリスト化した。2021年度は、コロナ禍の為、2020年度から延期されていた世界遺産委員会が開催され、2年分の世界遺産登録がなされたが、人々の移動が制限されるなか、世界遺産登録事業が地域における文化財の保護にあたえるインパクトはいかにして変化したのか、加えてコロナ禍における新たな観光のあり方(VRの活用等)について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度についても、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から調査地域における資料収集、インタビュー調査を行なうことができなかった。これまで、現地調査に代わって、郵送調査、オンライン調査を行なうため、世界遺産登録に関わる地方自治体における担当部署の特定を行ない、リスト化したうえで、コロナ禍における文化財保護に関する考え方の変化についても考察するため、質問項目の見直しを行なってきた。コロナ禍において文化財をめぐる価値づけに変化が生じているとするならば、それは世界遺産登録への対応に変化をおよぼすのか、という今日的な課題が生じたからである。世界遺産登録活動と観光政策との関連についても質問項目にくわえ、他者の来訪が減少するなか、地域社会において、市民が地域の文化財を見直す機会になりえたのか等、市民意識に関する質問項目を追加した。現状に合わせた質問項目の整理に時間を要し、調査の実施が遅れているため、研究の進捗状況をやや遅れているとしたが、2022年度は着実に調査を実施できるよう調査方法の工夫を行ないたい。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度も引き続き、世界遺産登録を目指す各地域の運動について、4カテゴリーに分類し、各地域に協力を仰ぎ、調査をすすめていく。対象地域は2006年、2007年に世界遺産候補公募に応募した全地域とし、対象地域に対して網羅的に調査を遂行する。世界遺産登録に対する対応について、共通の質問項目にて郵送調査を行う。その結果をふまえて、より詳細な事情を明らかにするために、インタビュー調査(場合によってはオンライン)を行なう予定である。カテゴリー2「他の国内の認定制度の枠組みに位置づける場合」においては、具体的にどのような経緯で新たな認定制度にシフトしていったのか、また、カテゴリー3「他の地域と連携する場合」では、他の地域と連携する契機等について教育資産群等を事例に具体的に明らかにしていく。 さらには、コロナ禍においては、地域における文化財の価値づけについて、変化することも推察されるため、世界遺産登録活動が、いかにして展開されるか/されないかについても調査を行う。とりわけ、コロナ禍、カテゴリー4「世界遺産登録事業を一旦中止する場合」にカテゴリーが変わるものがあれば、その具体的な要因について明らかにしていきたい。地域社会における文化財の見直しは、国際社会における他者を意識したものから、より地域住民に寄り添った政策へとシフトすることを意味するのか等、他者の来訪が減少しているなかでの変化を捉えたい。地域において 世界遺産登録運動は継続されていくのか/いかないのか等だけでなく、コロナ禍における文化財保護と観光開発のあり方について明らかにすることができるだろう。なお、本調査の成果は、論文「各地域における世界遺産登録運動の展開に関する類型化」(仮)としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、2021年度も現地調査ができなかったため次年度使用が生じた。2022年度は、現地調査および関係部署に対する質問紙(郵送)調査を行なうため使用する計画である。
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