最終年度である2022年度は、2006年、2007年に世界文化遺産候補の公募に応募し、その後暫定リストに掲載されなかった文化資産27件を管轄する各自治体を対象に質問紙調査を行った。調査は、郵送法とオンライン調査を併用した。調査では、世界遺産登録運動を継続的に行っているか、またその具体的な内容、他の文化資産カテゴリーへの認定、登録状況、文化資産の保存に関する他地域との連携状況、コロナ禍における文化財保護、観光政策の変化の有無について問うた。その結果、27件全ての文化資産を有する各自治体からの回答を得た。全数調査を行うことによって、各地域の世界遺産登録を個別に取り扱うのではなく、各地で実施されている地域の登録運動をパターン化して考察することによって、世界的な文化財保護制度が国内の文化財保護行政にいかなる影響を及ぼすのかを体系的に明らかにすることができた。また、熊本県阿蘇地域については、現地調査を行った。「阿蘇―火山との共生とその文化的景観」として推薦され、現在も、登録推薦活動が行われている。この事例で興味深い点は、2003(平成15)年、環境省と林野庁は、「世界自然遺産候補地に関する検討会」を設置し、新たに登録推薦を行う世界自然遺産の候補地を検討していた際に、「自然」遺産の候補地となっていた点である。一方で、文化財保護法の改正によって文化的景観という側面から、文化遺産としての可能性が取り上げられることとなった。その後、世界文化遺産登録を目指す活動が行われながら、世界農業遺産(2013年登録)、ユネスコジオパーク(2014年登録)など他のカテゴリーへの認定の連鎖現象がみてとれる。文化的景観というカテゴリーの誕生は、自然遺産から文化遺産へとその捉え方を大きく変えたことを意味していることが示唆された。
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