研究実績の概要 |
「Eタンデム」は, 自分の母語を学んでいる学習者とオンライン上でペアになり, 自分の母語を教える代わりに, お互いの母語を教え合うという互恵関係に基づいた学習方法である(Cziko, 2004). 本研究の目的は, 「学習成果」「インタラクションの特性」「個人差」という三者の関係性に焦点を当て,ビデオ会話ツール(Skype, Zoomなど)を用いたEタンデム学習が日本の英語学習者にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである. Eタンデムという新たな学習環境における言語習得が,インタラクション(会話活動 )の特性と個人差にどのように関わっているのか明らかにすることで, 英語教育の発展, 高等教育の国際化, さらには自律的学習や e-learning の普及に繋がることを期待している.
H30-31年度は「学習成果」,「インタラクションの特性」,「個人差」のうち, 学習成果の分析とインタラクションの分析を進めた. 具体的には, プロジェクト前後でコミュニケーション力が発達したかを確かめるために,「わかりやすさ」を指標にスピーチデータの分析と点数化を行った. 絵を描写する口頭テスト(スピーチデータ)の評価は二名の日英バイリンガルレーターが担当した. また, インタラクションの分析を進めるために, 6ペアの長期的インタラクションのデータを書き起こした. 各ペアにつき約9時間のインタラクションデータを収集したため, 約55時間の音声データの書き起こしを終えたことになる.
研究成果発表のため, イギリス応用言語学会に参加した. 最も英語力が上達した2ペアと, 逆に全く上達しなかった2ペアの談話を分析し, 学習成果とインタラクションの特性の関連性を明らかにした. また, 関東外国語教育メディア学会の基調講演でも, 本研究について触れ, 聴衆から貴重なフィードバックを受けることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インタラクションデータの書き起こしは約6割完了した. 残りのデータの書き起こしが必要かについては, 既にあるデータの分析を進めながら判断する予定である. H30-31年度は, 4ペアの談話分析を行ったが, Eタンデムプロジェクトの開始当初のデータしか分析を終えていないため, 今後は4ペアの長期的インタラクションの分析, また, 既にデータの書き起こしが完了している残り2ペアのデータの分析も行いたいと考えている. また, インタビューデータの書き起こしを終えていないため, H31-32年度に完了したい. 次年度は国際学会だけでなく, 国内での学会で研究成果を発表し, 論文に仕上げたいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き以下の2つの研究課題に取り組む予定である.
研究1 コミュニケーション力の発達と談話分析:発話の“分かりやすさ”, それを構成する発音, 流暢さ, 単語力, 文法力の4つを評価し, コミュニケーション力の発達を測定する. 次に, 最もコミュニケーション力が発達した英語学習者としなかった学習者のビデオ会話を談話分析する. また,言語面だけでなく, 非言語的な側面を個人差の視点から分析する. 昨年度, 日英バイリンガルによる口頭テストの採点及び分析を行い, 6ペアのビデオ会話の文字起こしを行った. 本年度はインタビューデータの文字起こしとその質的分析を行う. また, コミュニケーション力の発達したペアとしなかったペアのビデオ会話データにマルチモーダル談話分析を行う. 談話分析データ, コミュニケーション能力のテスト結果, インタビューデータの分析を同時に行うことで, 「会話」,「言語能力の発達」,「個人差」という三者の関係性を明らかにする.
研究2 Eタンデムにおけるフォーカス・オン・フォーム:意思疎通ができなかった時にする意味交渉(negotiation for meaning)やエラー修正はフォーカス・オン・フォーム(Focus on Form)と呼ばれ, 第二言語習得を促すとされている(Long, 1983, 1996). 過去に行われた研究の大半は教師と学生の間, または , ネイティブとノンネイティブの間で起こるフォーカス・オン・フォームを調べてきた. 本研究では, 言語教育の経験のない学習者同士が互恵関係のもと互いの言語を教え合うというEタンデムにおけるフォーカス・オン・フォームを調べる. どのようなフォーカス・オン・フォームがどの側面の言語能力(例. 流暢さ, 単語力, 文法, 発音)の発達を促すのか, 個人差に着目して分析する. 昨年度, 6ペアのビデオ会話データの書き起こしを終えた. このデータに基づき自然会話コーパスを作成し, 量的分析をする予定である.
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