近年、目標構造の産出を促すために統語的プライミング手法を用いた研究が行われつつあり、また、その学習時のメカニズムについても検証されている。特定の文構造に反復接触することにより統語表象が強化され、潜在学習が起こると考えられており、本研究では、日本人英語学習者を対象に特定の統語構造の音声提示を伴う絵描写課題を用いて、インプットの目標構造の出現頻度が統語的プライミング効果に及ぼす影響について調査を行った。また、学習者の脳内に統語表象をどのように定着させることができるのかについて検証した。これらの実験は、外国語学習者の統語産出能力がどのように自動化していくのかについて明らかにするものであり、話者の統語構造の検索・引き出しの自動化を目指す研究および教育の発展に寄与するものである。 令和4年度は、音声によるプライム提示・ターゲット産出による絵描写課題を用い、インプットの構造頻度が統語的プライミング効果に及ぼす影響の観点から検証を行った。その結果、学習者の文構造知識が宣言的知識から手続き的知識に移行することがわかり、また、累積的プライミング効果も見られたことから、日本人英語学習者も母語話者と同じく、予測エラーに基づく学習プロセスを経て統語知識の学習を行っていることが明らかになった。 また、学習者の脳内に統語表象を定着させるための活動として、リテリング・ノートテイキング・プレゼンテーション活動に焦点を当て、これらの活動や学習者相互評価システムに対する意識について、アンケートを用いて調査した。その結果、これらの授業内活動により学習者は統合的な英語運用能力を向上させたと感じており、また、相互評価システムの利用によるフィードバックの即時性および匿名性の高さによって学習者によるエンゲージメントが高められた可能性が示唆された。 これらの結果については、研究会で発表を行い、学術論文としても公刊した。
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