本研究は、日本の知的障害者のQuality of life (QOL)について、親元からの独立がQOLに与える影響を明らかにし、知的障害者(以下、本人)の自立や社会参加を進める支援や課題について検討していこうとするものである。2019年度は、前年度の日本における調査を踏まえ、一人暮らしをしている本人と、家族と暮らしている本人との間で、QOLに関する経験や支援環境の違いを検討するため、両者を対象としたフォーカスグループインタビューを実施した。研究協力者は、一人暮らしの本人4名、家族同居中の本人7名であり、インタビューの実施を補助する役割として、本人ら数名をよく知る福祉事業所の職員1名が参加した。一人暮らしをしている本人は、「自由」「親と距離を取れること」などを一人暮らしの良い点として挙げ、家族同居中の本人は、親を頼りにしている反面、葛藤も多いと話した。一人暮らしをしている本人が少ない現状において、本人らが暮らすことに関する情報交換や経験を共有する意義は大きいと考えられた。 また、諸外国との比較に関して、前年度のデンマークに続き、オーストラリアにおいて個別のインタビュー調査を行った。調査協力者は、本人3名、その親またはきょうだいが3名、本人の支援者1名であった。個別の事例に加え、親元からの独立の状況や、National Disability Insurance Schemeに関する情報を得るため、メルボルン郊外の障害者支援機関2か所を訪問し、CEOらに対するヒアリング調査を行ったほか、権利擁護に関する専門家への電話インタビューを行った。 これまでの調査に関する成果発表については、スコットランド (グラスゴー)で開催されたIASSIDD国際学会での口頭発表を始め、国内外の学会で報告を行った。なお、令和2年度中には、未発表のデータに関する論文化と国内外の学会誌への投稿を目指している。
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