本研究は、成人学習論の古典である変容的学習論(Transformative Learning Theory)に「異質な他者」の視点を組み込むことで、同質な集団内での学習を想定した従来の理論から、構成員の流動性を前提とした学習の分析に耐えうる理論を再構築することを目的としたものである。具体的には、異質な集団たる健全者(健常者)に働きかけながら地域で暮らす権利の獲得を図ってきた障害者運動を事例とし、異質な他者同士が日常生活の延長として出会い、相互承認に至るための条件を明らかにした。 本研究では、文献調査をもとに、障害者の学習を支援する専門職の養成プロセスと、障害当事者が主体性を行使するための条件を比較しつつ、学習者の社会規範が変容的学習に及ぼす影響を検討した。その結果、当初から社会変革を目的として行おうとする学習に比して、学習者の身体性と社会規範の関連を再検討する学習の方がより学習者の主体性の行使に結びつく可能性が高いことが明らかになった。これにより、これまでの研究では十分ではなかった学習という視点を用いて障害者運動を分析する可能性を切り開くとともに、実践に対する新たな視座を得たことが本研究の成果として挙げられる。
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