研究課題/領域番号 |
18H05768
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 盛岡大学 |
研究代表者 |
長田 洋一 盛岡大学, 文学部, 教授 (30826508)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 通級指導教室 / 自立活動 / 発達障害 / 通級指導担当教員 / 通級による指導 / 教科の補充指導 / 童話 / 心理劇 |
研究実績の概要 |
通級指導担当教員114名から得られたアンケート結果を示す。 ①教員1人当たりの平均指導人数は16.6人であり、内訳は、学習障害(LD)児3.8人、注意欠陥多動性障害(ADHD)児4.3人、自閉症スペクトラム(ASD)児4.0人、言語障害児2.6人、知的障害児0.5人、その他(情緒障害等)1.4人であった。発達障害(LD,ADHD,ASD)児が占める割合は73%であった。 ②教員1人当たりの平均授業時数は週18.1時間であり、内訳は、自立活動15.0時間、教科の補充指導3.1時間であった。 ③発達障害児に自立活動と教科の補充のどちらを行っているか尋ねた。LDに対して自立活動を行っている教員68名、教科の補充を行っている教員46名であった。ADHDに対して自立活動を行っている教員94名、教科の補充を行っている教員16名であった。ASDに対して自立活動を行っている教員84名、教科の補充を行っている教員21名であった。自立活動が中心に行われていることがわかった。 ④自立活動の授業の目標と内容を尋ねた。目標は、特別支援学校学習指導要領自立活動編の6区分に当てはめると、コミュニケーションに関する記述が22件、人間関係の形成に関する記述が21件、心理的な安定に関する記述が10件であった。内容は、ソーシャルスキルトレーニングの関係が70件、ビジョントレーニングが27件、認知機能トレーニングが17件であった。 ⑤自立活動のやりにくさや困難さは、「指導の効果や成果に関すること」が33件あり、その中で「通級で学習したことをクラスで生かすことは難しい」といった般化に関する記述が21件あった。他に「学級担任や保護者に関すること」が28件あり、その中に「自立活動だけだと学級担任や保護者の理解が得られない」が見られた。「対象児の障害や状態に関すること」が18件、「授業の進め方や内容に関すること」が18件であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発達障害児の対人関係を向上させるため、研究者はこれまでに「童話を題材とした心理劇」を通級指導教室の自立活動の授業で実施してきた。「童話を題材とした心理劇」が広く通級指導教室で活用されていくためには、通級指導教室全般の実情に即したものに原案を修正していく必要がある。そこで、発達障害児が通級による指導を受けている現状や通級指導教室の授業内容、担当教員の困り感などを把握するため、通級指導担当教員を対象にアンケート調査を実施した。2018年11月にアンケート用紙を作成し、12月にA県の通級指導担当教員150名に郵送したところ、2019年1月~2月に114名から回答が得られた。回答率は76%であった。アンケートの結果は、「研究実績の概要」で示した通りである。アンケートの結果により、通級指導教室へ発達障害児が通っている状況やそこで行われている授業内容を把握することができ、通級担当教員が発達障害児を指導する上で感じているやりにくさや困難さも把握することができた。 このアンケート結果から、発達障害児にはどのような童話を劇化させるとよいかが見えてきた。発達障害児は通級指導教室で落ち着きがなかったり、強い不安感を示したりしている。そのため、通級指導担当教員の多くは常に静かな環境づくりを心がけていることがわかった。したがって、通級指導教室で行う心理劇で取り上げる童話は、戦いの場面があって動きの激しい童話より、やさしさをモチーフにし、心穏やかになるような童話を取り上げた方がよいことがわかった。例えば、「かさこ地蔵」「おむすびころりん」などである。このように、発達障害児に適した童話の選定のしかたが示唆された。他にも、実施する上での改善点がないかどうか慎重に検討し、精度を高めた上で改訂版を実践に移していく。 以上の研究の経過より、2018年度末の時点で研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
①アンケートの分析結果を踏まえ、研究者がこれまで行ってきた「童話を用いた心理劇」を通級指導教室全般の傾向に即して改訂する。実施の方法や手順、題材の取り上げ方、対象児の人数等を再検討し、修正を加える。改訂版は6月末までに作成する。 ②「童話を用いた心理劇」の改訂版を前期の大学の授業で受講生を対象に試験的に実施する。研究者の担当科目である「学校心理学演習Ⅰ」と「臨床心理学」の授業の中で実施する。改訂版の妥当性を検証するため、実施後に受講生に感想を発表させたり、レポートを書かせたりする。前期の授業が終了する7月末までに実施する。 ③「童話を用いた心理劇」の改訂版を完成させる。前期の授業で受講生に行った実践の中で受講生から寄せられた感想やレポートの内容を分析し、実施方法について再検討する。問題点や改善点が見つかった場合は、再度修正し、「童話を用いた心理劇」の改訂版を9月末までに完成させる。 ④「童話を用いた心理劇」の完成版を後期の授業で取り上げる。研究者の担当科目である「学校心理学演習Ⅱ」と「心理学概論」の授業の中で受講生に紹介し、体験させる。前期の授業で取り上げる際は、完成度を高めるための試験的な意味合いが強いが、後期の授業では受講生が卒業して学校現場や福祉現場に就職した際に、自らの手で心理劇が実施できるように受講生の実践力を向上させることを目的とする。実施後は受講生から感想を発表させたり、レポートを書かせたりする。後期の授業が終了する1月末までに実施する。 ⑤「童話を用いた心理劇」の完成版を小学校現場で実施することを計画する。大学の近くの小学校で週1回を3か月程度継続的に実施できる協力校を捜す。その際、研究者自身の手によって発達障害児に実施することを条件にする。協力校が見つかったら、対象児童の候補を挙げてもらい、実施に関して本人および保護者からの同意を得る。これらを3月末までに行う。
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