ASD児の対人関係の改善に向け、「童話を題材にした心理劇」を開発し、小学校の通級指導教室で実践してきた。この技法が広く普及していくために、本研究では問題点を見つけ、改善を図ることを目的とし、大学での2科目の授業で学生を対象に心理劇を行った。劇が終了した後、自己評価と感想を記入してもらい、そこから問題点を探った。 自己評価では、よくできた(4点)、できた(3点)、あまりできなかった(2点)、できなかった(1点)の基準で4項目を評価してもらった。各項目の平均点(SD)は、「自己表出」3.0点(1.0)、「受容・共有」3.2点(0.2)、「他者との関わり」3.2点(0.7)、「働きかけに対する反応」2.6点(0.8)であった。この結果より、学生は他者の演技を受容したり、他者と関わることはできたと評価する一方で、他者からの働きかけに対する反応は十分でなかったと評価していることがわかった。他者からの働きかけは自分が予期しない時にされることもあるため、適切な反応を即時に返すことは難しいと言える。したがって、ADSの小学生が劇の中で働きかけに無反応であったりした時は、教師が介入し、適切な反応へと導いていく必要があることがわかった。 学生からの感想では、観客を意識した感想が多かった。演者の立場から「誰かに見られているという意識を持ちながらどういう行動を取るべきか考えながら演じた」等があり、観客の立場から「他のグループでは、ナレーションを交えたり、ユーモアを加えたりと個性的であった。動作を大げさに入れた方が観客に伝わると思った」等があった。シェアリングに関して、「演者と観客では抱く感想が違うので、観客全員が感想を述べるとよいと思った」等も見られた。今後、ASD児に実践する際は、2グループを同じ時間に設定し、一方のグループが演じている場面を他方のグループが見るように観客を設定していきたい。
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