研究実績の概要 |
本研究の目的は、継承日本語教育に携わる教師が他の教師や学校運営者と協働的な関係を構築するプロセスを明らかにすることであった。本研究の2年目であり最終年度にあたる2019年度は、前年度に得た分析結果を学会にて報告した。今年度に行った追加のインタビュー調査で得たデータの分析結果も学会にて口頭発表し、論文化を進めている。得られた主な成果は以下のとおりである。 まず、異なる学校の教師同士の関係構築において、継承語教師の職業としての未確立性や継承語学校の資金不足といった構造的問題、および学習者や学校の超多様性という継承語教育が内包する性質が、教師のつながりを阻んでいることが明らかになった。しかし、オンラインツールの活用や問題意識を共有することで、つながりが生み出されていることも確認された。同じ学校に勤める者同士の場合も、時間、スペース、資金、人材の不足が関係構築の難しさにつながっていた。これらの結果から、教師の関係構築には継承語教育が抱える構造的問題が強く影響していることがうかがえ、教師の努力のみにその成否を委ねることの限界が示されている。 また、教師の自己イメージに注目した分析では、教師同士が「教師としての理想自己」(Kubanyiova, 2009)を共有し、それを実現したいという気持ちを持つことが協働への意欲につながっていたこともわかった。また、協働的な関係によって「教師としての理想自己」に近づいているという実感を持つこともうかがえた。
|