本研究は、教室での利用を想定した吹き出し型字幕提示システムについて、情報保障技術としての有効性と限界を検討することを目的とする。近年の学校教育ではアクティブ・ラーニングの推進に伴い、学習者の対話的な学びが重視される。このような状況下において、現実場面における聴覚障害者と健常者のコミュニケーションを支援する技術の開発が必要といえる。平成30年度では、先行研究および当事者施設・団体からの資料収集を行い、複数人の情報保障方法に関するデザイン指針立案・基礎的な開発の検討を行なった。平成31年度ではデザイン指針修正を行い, 吹き出し型字幕の表示位置に関する研究のための評価実験の実験用刺激の検討と作成を行ったが、以降令和3年度まで度々、コロナ禍により大学・学校現場・施設における実験が中止となり先行研究の分析を除くシステム開発・研究に著しい遅れが生じた。令和4年度では、吹き出し型字幕の表示位置に関する研究のための評価実験として、適切な情報保障のための吹き出し型字幕の位置の検討にあたって、健聴な大学生を対象とした評価実験を行った。評価実験では、吹き出し型字幕による情報保障、固定字幕による情報保障の2種類について、現実の会議場面を想定し登場人物が実物大となるように投影した2分間の字幕付き映像2本を視聴させ、視聴時の視線状況を計測するものであった。参加者は2名であった。アイトラッカーを用いた視線データの計測・分析により、個別の字幕提供時に参加者が発話者の特定に意識を向ける傾向にあることが示唆された。また、映像視聴時に参加者がより意識を向けたと考えられる対象、字幕あるいは話者について、吹き出し型字幕による支援が固定型字幕による支援と比べて時間的な面で有効に働き、映像鑑賞においてより長い時間意識した対象に視線を向けることができたことが示唆された。
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