研究課題/領域番号 |
19K20968
|
研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
工藤 理恵 フェリス女学院大学, 全学教養教育機構, 講師 (10822984)
|
研究期間 (年度) |
2020-02-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 日本語教育 / 国際協力 / 日本語教育支援 / 海外の日本語教育 / 教育開発 / 国際教育協力 / 日本語普及 / 質的研究 |
研究実績の概要 |
2020年度及び2021年度は予定していたフィールド調査を断念せざるを得ない状況であったため、方向性を大きく変更し、調査を実施した。これまでの実績として、次の3点が挙げられる。 実績の1点目は、日本語教育を通じた国際協力の枠組みを示した論考の公開(「日本語教育を通じた国際協力―在外大使館員の語りに注目して」『フェリス女学院大学文学部紀要』56)である。日本語教育支援は国際協力の枠組みで連綿と続けられながらも、今日まで学術的な位置づけがなされず、日本語教育支援そのものが国際協力の文脈で取り上げられない中、本論考はそれをはじめて議論の俎上に載せた論考であると言える。この論考をきっかけに、国際協力と日本語教育を柱とした小さな研究グループが出来つつあり、今後の議論への足掛かりとなることを期待している。 実績の2点目は、文献調査により海外の日本語教育支援の歴史的な文脈とその枠組みを明らかにできたことである。日本語教育分野だけではなく、国際協力・教育開発の分野を含めて多分野横断的に調査を行った結果、日本語教育支援の支援としての位置づけが不明瞭であることが明らかになった。それは、支援そのものが常に日本語普及や国際文化交流など他の何かに付随して行われたことにも起因しており、また支援実施団体の影響も認められた。これらの調査結果は、論文として公開予定である。 実績の3点目は、支援の現場から立ち上がる支援の意味付けについてのインタビューを行い、複数の立場からの証言を得られたことにある。2022年、国際交流基金から派遣された最後の専門家が帰国し、ブルガリアにおける公的な日本語支援は正式に終了した。40年強にわたって行われた支援にどのような意味があったのかについて、様々な形で支援に携わった関係者の声を収集している。今年度も可能な限り、インタビューを続けた上で、それらの証言を成果としてまとめたいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍により、当初予定していたフィールド調査を行うことができなくなり、2022年もフィールド調査に赴くのは難しいと判断した。これらは予定通りの方向性ではないが、フィールド調査には行けないことを念頭に、最終年度の研究調査を行いたいと考えている。 フィールド調査はすべてオンラインに切り替え、実施している。フィールド調査では、現地の機関などに直接赴き、複数の関係者へのインタビューを予定していたが、オンラインインタビューに切り替えて関係者を徐々に紹介してもらいながらインタビュー調査を進めている。オンライン調査に切り替えたことにより、協力者の数は少なくなったと考えられるが、一方で、依頼をすれば複数回、インタビューに応じてもらうことが可能になった。このように、調査の形式は変わり、失われた機会もあるとも感じるが、いくつかの利点もあると感じている。今年度は、その利点を最大限にいかし、調査を進めたい。
|
今後の研究の推進方策 |
現在は、インタビュー調査の終盤であり、これまで調査で集めた記録をまとめ、分析する段階にある。これらを一つの成果として発表したり、また研究論文としてまとめたりすることを目指している。インタビュー記録が集まる中で、大枠での方向性が定まりつつあるため、海外における日本語教育支援の意味について深く考えながら、成果をまとめていきたい。 また、新たな視点から、ケイパビリティ・アプローチに関連する課題が一つ設定されている。ケイパビリティ・アプローチとは、教育開発における代表的な基礎理論の一つである。国際協力を通じた日本語教育との関連を教育開発分野で調査した際、教育開発との接点を全く確認することはできず、ケイパビリティ・アプローチにおいても日本語教育支援との連関が認められないことが明らかになった。ケイパビリティ・アプローチそのものの調査を引き続き行い、その意義を見極めた上で、日本語教育支援との接続可能性について、必要な場合は検討する必要があると考えている。 最後に、研究の方向性として言及しなければならないのは、海外の日本語教育支援というテーマ設定についてである。本研究課題は、海外の日本語教育支援ではあるが、実際に調査を進める中で支援を受ける個人は海外/国内を移動しており、支援そのものを海外と国内という区分で分け、「海外」を固定させ切り取り議論することへの難しさを感じるようになった。国際協力や日本語支援という枠組みを、個人あるいは移動する人の視点から捉えられるように、検討する必要があると考えている。本研究課題を引き続き発展させる際には、この「海外」という枠組みは再検討する必要があると感じている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によりフィールドへの渡航ができない状況が続き、フィールド調査を行うことができなかったため、研究の方向性を大きく変更して調査を行っている。当初は、調査地であるブルガリアを訪問し、日本語学科が新設された学校や、民間の日本語学校、地方都市の学校などの新しい取り組みが見られる機関をはじめ、80年代から国際交流基金が支援を続けたソフィア大学(2022年に最後の日本語専門家が帰国し、公的支援はすべて終了した)、ソフィア第18学校、ヴェリコ・タルノヴォ大学などを訪問し、キーパーソンである関係者から滞在中に複数回インタビューをする予定で、大規模な日本語支援が終了後の様子をとらえたいと考えていた。しかし、コロナ禍でフィールドに出向く目途がたたず、文献調査とインタビュー調査に切り替え、文献調査の範囲を大きく広げた。そのため、書籍の購入費が増額されるなど、予算の面においても大幅な変更が出ている。 今年度は、残りのインタビュー調査を行い、それに伴う文字起こし、分析などを行い、成果をまとめることが中心の活動となる。成果をまとめる際には、学会、研究会や勉強会など多くの機会を利用し、できるだけ複数の関係者から意見をもらいながら進めていきたい。
|