今年度の成果として、次の2点が挙げられる。 1点目は、日本語教育実践をケイパビリティ・アプローチの一環として行う可能性を検討していることである。海外の日本語教育支援は、その歴史的系譜から、日本語普及、国際文化交流、国際協力等の複数の文脈からマクロな影響を受けており、個別の現場では、各現場の背景や人材の相互作用によりミクロの文脈が形成されることが明らかになった。このように、日本語教育支援の現場の背景として、マクロ・ミクロそれぞれの文脈に影響があるという状況において、現場において共有されている理念がないことで現場の混乱が生じているという問題が挙げられる。そこで、教育開発におけるhuman capabilityの潮流にヒントを得て、ケイパビリティ・アプローチに関する調査に着手している。 2点目は、海外の日本語教育支援というテーマの捉え直しを行っているということである。海外の日本語教育支援というテーマ設定に関する課題は二つある。一つ目は、支援者・被支援者という括りである。支援というワードにより、一方的な関係性が印象づけられるが、実際には、相互的な関連により現場が成り立っていた。相互構築的な視点が反映されるテーマ設定をする方がより現場に忠実な研究内容になるのではないかと考えている。二つ目は、近年の移動という現象や学術的な流れを捉えれば、海外という物理的な面でテーマを切り取るのではなく、途上地域や困難な状況という設定で調査を続ける必要性が高まっているということである。途上地域における外国語教育というものを捉える、よりふさわしいテーマ設定について、パイロット調査を実施しながら本研究テーマを昇華させる方向性に向けて検討を重ねている。これら二つの課題を捉えた新たなテーマ設定を行いたい。
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