本研究の目的は、教師同士で人間関係上のトラブルを抱える生徒の生徒指導について話し合いを行うとき、その話し合いの場において教師間でどのようなワークが協働的に組織され、それが生徒指導の計画・方針に対していかなる影響を及ぼすのかを学校現場での質的調査に基づいて解明することである。 研究目的に即して、研究初年度に当たる2018年度には、生徒指導論及び青少年研究を中心に先行研究・実践資料を渉猟して研究課題及び研究方法を改めて整理し、さらに教師を対象としてインタビュー調査を継続的に実施した。当初最終年度予定としていた2年目、2019年度には、インタビュー調査で収集したデータを分析し、日本子ども社会学会第26回大会で研究成果を報告した上で、論文執筆を開始した。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、調査協力者との分析結果の確認作業や研究論文のブラッシュアップの機会を失い、2020年度にも事業期間を延長した。3年目にあたる2021年度にも、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響で特に調査協力者との分析結果の確認作業の場を設定することに難航したが、時期を見て実施することができた。また、研究論文のブラッシュアップを行うための研究会も開催でき、論文執筆を進めることができた。 研究の具体的成果として、分析の着眼点は教師間での話し合い過程(相互行為過程)で生じている特徴的な言語実践に注目することができ、教師は同僚教師との間でいわゆるジャーゴン(仲間だけに通じる特殊な言葉)を編み出し、秘匿化された言語実践を通して、生徒の置かれた状況を問題化すると同時に、理解しようとしていることが明らかとなった。このジャーゴンの存在への指摘は、これまで教師間相互行為の中に閉じられた技法の実践の存在をも示唆するもので、そこに生徒指導論が踏み込むべき新たな研究調査のフィールドがあるという論点を与えてくれたといえる。
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