近年,知識基盤社会の進展に伴い,断片化された知識や技能ではなく,汎用的な資質・能力の育成が世界的な潮流となっており,我が国においても問題解決の能力の育成がより一層求められるようになった。そこで本研究では,まず,小学校理科授業における問題解決の過程の初発に位置する仮説設定において,資質・能力を育成するための中核的な役割を担う因果関係の見方・考え方を働かせながら作業仮説を設定させる指導法を開発した。具体的には,自然事象から従属変数の変化の仕方と独立変数の変化のさせ方を捉えさせ,それらを関係付けることで仮説を設定させるワークシートを考案した。そして,開発した指導法が児童の仮説設定能力に及ぼす効果を授業実践および調査問題を用いて検証した。次に,小中学校の理科教科書に掲載されている全ての観察・実験等を対象に,因果関係の有無と児童の発達段階の観点から開発した指導法の適用の適否を検討した。さらに,上述の小学生を対象とした研究から得られた成果を中学生にも拡張し,因果関係のある自然事象から従属変数と独立変数を同定させ,それらを関係付けることで問題を見いだし,目的意識をもって実験を行い,課題を解決できるような理科授業を実践した。最後に,これまで述べてきたような理科授業を実践できる教員の養成に向けて,初等教員養成課程学生を対象に,理科に対する興味,学習行動および主体的・対話的で深い学びといった諸要素に関する意識調査を行った。その結果,主体的・対話的で深い学びを成立させるためには,理科に対する興味を喚起するとともに,批判的思考と学習行動の向上を促す指導の可能性を裏付ける根拠と示唆を得ることができた。以上のように,因果関係の見方・考え方を働かせて自然事象を捉えさせる指導法を開発し,小中学生を対象にその効果を検証するとともに,開発した指導法の効果が期待される全ての観察・実験等を整理した。
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