前年度まで進めてきた非行少年研究について、さらに国際的な視点を付け加えるという目的で、最終年度はフィンランドのタンペレ大学および現地の児童養護施設やネウボラでの調査研究を行った。具体的には、タンペレ大学のTarja Poso教授とRosi Enroos研究員とのディスカッションを行ったうえで、タンペレ市にある児童養護施設(Family Support Center)と西タンペレにあるショッピングモール内に設置されているネウボラを紹介いただき、視察および職員とのディスカッションを行った。ディスカッションを通して「非行(juvenile delinquency)」という語自体に日本とフィンランド間でとらえ方に差異が生じているということに加え、「保護(protection)」と「処罰(punishment)」という概念も二国間で異なる点が明らかになり、その成果は世界教育学会(WERA)の東京大会にて発表を行った。 他方、以上のような調査研究に加えて、戦前における感化院・少年教護院の職員たちが「教育的なるもの」をいかに語っていたのかについて、雑誌『感化教育』『児童保護』の言説分析を行った。その結果、戦前における不良少年のケアに携わっていた感化・保護教育は、学校教育や少年司法の動向を注視しつつ、「教育的であること」という言説を繰り返しながら自らの社会的意義を模索してきたということが明らかになった。昭和戦前期における非行少年を巡る教育と福祉の関係性を描き出したことによって、現代における教育と福祉を困難にしている状況が、いかなる経緯や思想の展開の中で生成してきたのかについて考察するための糸口となったといえる。その成果は、『人間教育と福祉』第9号に掲載される予定である。
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