本研究の目的は、米国における1990年代以降の教育ガバナンス改革の特徴と課題を分析することを通じて、地域の教育課題の解決に資する教育行政の理論と制度のモデルを描くことにある。 第一に、教育ガバナンス概念の学説検討を行った。ピエール及びピーターズによる国家中心アプローチのガバナンス論を援用し、米国における教育ガバナンス改革の概念を検討した。 第二に、新たな教育ガバナンスの下での教育政策形成過程を分析した。州知事、州議会、州教育委員会、州教育長などの既存の政府機関が中心となってニューオーリンズ市における教育ガバナンス改革が実行されたことを示した。その上で、同市ではポートフォリオ・マネジメントと呼ばれる学校管理手法が導入され、教育委員会の役割が政策形成と成果管理に限定され、学校の管理・運営は民間団体に委ねられたことを示した。 第三に、ニューオーリンズ市における教育政策決定に関わる地域的条件を抽出した。文献調査によって特に1990年代以降の同市における教育改革の動向を分析した。加えて、現地調査によって教育関係団体のネットワークの現状について分析した。その結果、①同市における学校の管轄を巡る歴史的な対立が、教育ガバナンス改革を名目に再び表面化している一方で、②ルイジアナ公立学校連合(Louisiana Public School Coalition)の成立のように州レベルでの教育団体の連携はむしろ強まっている側面が確認された。 これらの分析結果から、ニューオーリンズ市における教育ガバナンス改革は、主に州政府機関の問題認識に基づき、地方教育委員会及び公立学校の行政・組織改革として実行されたことが明らかになった。その一方、教育関係団体の政府機関に対する影響力は失われておらず、教育のローカル・コントロールへの根強い支持もあり、教育成果が向上しない限り同改革は継続されない可能性も示唆された。
|