本年度は,研究協力園にて,年少児から年長児までを対象とした心理学実験を行った。実験の内容は,従来用いられている誤った信念課題のサリーとアンの課題と本研究がオリジナルで準備したスマーティ課題の修正版であった。スマーティ課題の修正版では,実験者が操作するパペットの心的状態を参加児が推測する内容であった。この課題では心的状態を推測する相手が自分と同じグループの内集団条件と,違うグループの外集団条件の2条件があった。グループ分けは,参加児が自分の好きな色のシールを選び,それと同じ色のシールか違う色のシールが名札に貼られているかで行った。 サリーとアンの課題,内集団条件のスマーティ課題,外集団条件のスマーティ課題の成績について比較したところ,内集団条件のスマーティ課題の成績が有意に高かった。この結果から,幼児にとって他者の心の理解には相手の同質性が重要であると言うことが示唆された。 本研究では,初年度に幼児は相手が自分と同じ好み(好きな遊びや食べ物など)を持っている時に相手と関係性を維持したいと考えるということを実験的に明らかにした。そして本年度には相手と同じグループであるということによって相手の心的状態をより正確に推測することができることが示唆された。これらの結果から,幼児においても相手が誰かによって心的状態の推測の困難さが変わることが明らかとなった。しかしながら,実験の手法の限界としてそれがなぜ影響を及ぼすかまではわからなかった。一方で初年度の研究から相手との関係性を維持したいと考える動機づけの影響も示唆されているため,今後の研究でこれらの関連をより明確にすることが課題であると言える。
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