本研究では,触覚―視覚間統合に関わる脳の反応性の発達的な敏感期の有無,および,敏感期に関わる生理学的要因を明らかにすることをめざす。これまで,ヒトの乳児期において,身体接触を伴う社会的相互作用経験が,新規な顔や単語の学習に寄与することが示されてきた。しかし,身体接触の学習効果の神経学的・生理学的メカニズムと,その発達的な敏感期に関する実証的な証拠はほとんどない。そこで,本研究では次の三つの問いを実験的なアプローチによって検討する。①他者に触れられながら他者の顔を見る経験が,乳児および成人の脳内の触覚―視覚間の情報統合を促すかどうか,②その脳の反応の大きさに関して,発達的な敏感期が存在するかどうか,③身体生理状態(自律神経系活動やそれに関わる求心性神経反応)の個人差と①が関連するかどうか。 今年度は、成人5名および5-9ヶ月時乳児7名を対象とした心電ー脳波同時計測の予備計測を実施した。まず、安静時(動画を提示している最中)の参加者の心電図と脳波の同時計測を実施した。計測にあたっては、乳児という脆弱な対象を扱うため、身体を拘束する心電図や脳波計測に耐えられる持続時間等も検討した。安静時における心電図と脳波の同時計測に成功した。さらに、自律神経系活動に関わる求心性神経反応(心拍誘発電位HEP)の解析を行い、対象とする月齢の乳児において、HEPの解析に成功した。また、他者に触れられながら他者の顔を見る課題についても予備調査を行い、実験試行数や刺激数、実験時間等を検討した。
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