研究課題
本研究では,触覚―視覚間統合に関わる脳の反応性の発達的な敏感期の有無,および,敏感期に関わる生理学的要因を明らかにすることをめざす。これまで,ヒト乳児期において,身体接触を伴う社会的相互作用経験が,新規な顔や単語の学習に寄与することが示されてきた。しかし,身体接触の学習効果の神経学的・生理学的メカニズムと,その発達的な敏感期に関する実証的な証拠はほとんどない。本研究では次の問いを実験的なアプローチによって検討する。①他者に触れられながら他者の顔を見る経験が,乳児および成人の脳内の触覚―視覚間の情報統合を促すかどうか,②身体生理状態(自律神経系活動やそれに関わる求心性神経反応)の個人差と①が関連するかどうか。今年度は、生後5~9ヶ月児50名を対象に、他者に触れられながら他者の顔を見る経験が、その後の顔刺激知覚時の脳内情報処理パターンに与える影響を、脳波計測により検討した.具体的には、経験フェーズにおいて、参加者の腕または足を筆で撫でながら(触覚あり条件)、あるいはそうした関わりをせずに(触覚なし条件)複数の見知らぬ他者の顔写真を提示した。その後のテストフェーズでは、経験フェーズでみた顔写真を参加者に提示し、その際の脳波と心電図を計測した。さらに、安静時(課題に関連のない動画を提示している最中)の脳波と心電図を計測した。解析の結果、乳児では、触覚なし条件よりも触覚あり条件でみた顔写真を提示している最中の方が、頭頂領域および後頭領域の脳波の振幅活動が強いことがわかった。一方、テストフェーズ中のHEPについては条件間で有意な差が認められなかった。安静時のHEPの振幅とテストフェーズ中の感覚統合に関わるERPの振幅との関連について追加解析中である。
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