研究実績の概要 |
中枢性疲労は脳神経系を主体とする疲労現象である。我々の動物実験から、中枢性疲労の成因には海馬内のアミノ酸のトリプトファンとキヌレニン経路の代謝亢進が関与することを明らかにした。一方、中枢性疲労が脳機能に与える影響について、壮年期の慢性疲労症候群患者では聴覚ワーキングメモリ課題中の小脳や海馬の活動が上昇することが報告されている。 このように、中枢性疲労の誘発機序を調べた研究では、壮年期の慢性疲労症候群患者やラットの中枢性疲労モデルを対象とした成果がほとんどであり、子どもの中枢性疲労を分子と神経機能から迫った研究は少数にとどまる。さらに、子どもの不定愁訴を調べた疫学的研究では、睡眠異常や疲労に悩む多くの就学者が存在すると言われており、これらの遷延化が就学の困難に関係することも指摘されている。 本研究では、海馬を機軸とした行動、分子、神経基盤の3つのレベルの指標が不登校生徒と健常生徒でどのように異なるのかを、行動調査・実験(疲労や睡眠検査、記憶実験)、生化学実験(トリプトファンなど)、fMRI実験から検討する。 まず、13歳から18歳の不登校生徒は健常生徒と比べて睡眠時間が長いことがわかった。さらに、睡眠の質や疲労度を調べたところ、不登校生徒は健常生徒よりも睡眠中央時刻が後退し、認知的作業後の疲労度も高まることを見出した(Int J Tryptophan Res, 2020, in revision)。 この成果から、ジェットラグのような状態を伴う不登校生徒の脳は疲労が蓄積した状態にあると推測するが、生化学や認知神経科学の手法を取り入れた脳機能の精査が望まれる。本実験の遂行については若干の遅れが生じているが、現在、行動実験と生化学実験の解析に取り組み、今年度も引き続き本研究課題を進めている。
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