研究実績の概要 |
ヒトの認知機能である視覚的注意は、複雑な視覚環境の中から不要な情報を抑制し、必要な情報を選択するうえで重要な役割を果たしている。2021年度は主に以下の成果を上げることができた。 注意の促進と抑制が独立にはたらくとする先行研究の追試と拡張をオンライン実験で行った。視覚探索課題では特定の図形を探し、図形中のドットの位置を答えることが求められた。全試行の30%でランダムに呈示されるプローブ課題によって注意が標的刺激と妨害刺激のどちらに配分されるかを評価した。プローブ課題では、標的刺激の色または妨害刺激の色を含む図形上にアルファベット文字が呈示され、実験参加者は「A」もしくは「B」のどちらが呈示されていたかを答えることが求められた。実験の結果(n = 46)、注意の促進と抑制を同時に観察した先行研究の結果は再現されず、両者の効果のあいだには負の相関が認められた(r = -.46, 95% CI [-.66, -.20], p = .001, t (44) = 3.44)。また両者の効果はそれぞれを独立に評価した追加実験(n = 48, n = 47)のデータと同程度だった。さらに、先行研究のデータと本研究のデータを合わせたメタ分析からも、注意の促進と抑制のあいだに負の相関があることが示唆された(r = -.31, 95% CI [-.57, .02], p = .068, z = -1.83)。これらのことは、両者は同時に使用されるというより、参加者のストラテジーによってその使われ方が異なる可能性を示唆する。以上の研究成果は『F1000Research』に掲載された。
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