本年度は、ワンストップ支援センターからの紹介で精神科を受診した被害者の実情について、カルテ調査研究の結果を報告した。調査対象者のうち、トラウマに焦点化した認知行動療法(以下、CBT)導入群とCBT非導入群の特徴について検証し、性暴力被害者の精神科治療の課題について検討した。 対象者は、2012年6月~2018年11月末の6年半の間にワンストップ支援センターからの紹介により精神科初診となった患者のうち、カルテから得られる情報の研究利用について本人あるいは未成年者の場合には保護者より書面にて同意が得られた者とした。分析項目は、対象者のカルテから収集した属性、被害関連事項、診察および治療関連事項等の情報とした。 分析の結果、対象者70名の初診時の平均年齢は26.8±8.7歳であり、そのうち52名(74.5%)の主診断がASDあるいはPTSDであった。CBT導入群34名(48.6%)とCBT非導入群36名(51.4%)は、初診時年齢(p=.036)、主診断名(p=.006)、薬物療法の有無(p=.011)、治療転帰(p=.010)において有意差があった。 本研究より、ワンストップ支援センターから紹介される性暴力被害者においてはPTSD罹患率が高いことが示唆され、被害者へのPTSDの専門治療が求められることが示唆された。犯罪被害者等の支援においては全国どこでも必要な支援等が途切れることなく提供されることが必要であり、性暴力被害者の精神的回復においては、本研究における性暴力被害者の実情を踏まえ、地域の実情に合わせた支援が行われることが有用であると考えられる。 また、CBT非導入群においては、治療中断者が多い傾向となったことから、ワンストップ支援センターから紹介される性暴力被害者の介入において、治療中断を防ぐ介入を行うことの重要性が示唆された。
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