研究実績の概要 |
本研究の目的は,人間の言語機能における音韻処理システムと形態処理システムの相互作用を検討することである。2019年度は前年度に引き続き,文字という形態表象の獲得前後で音韻処理システムが変化する可能性を検証するため,学習アプローチによる実験(e.g., Rastle et al., 2011)を実施し,データ収集をおこなった。 また,カタカナ語とそのローマ字表記語を用いたストループ課題も実施した。ストループ課題において,色名と文字列の先頭音が同じ場合 (e.g., rat printed in red),先頭音が異なる場合に比べて (e.g., fit printed in red),色の命名潜時は有意に短くなることが知られている (e.g., Coltheart et al., 1999)。先行研究においては,日本語を用いたストループ課題では色名と文字列の先頭1モーラが同じ場合に,仮名や漢字といった文字列の種類に関係なく,有意な促進効果が観察されることが報告されていた (Kinoshita & Verdonschot, 2019)。このことから,ストループ課題における音韻処理(i.e., 色命名反応)は,文字列の形態処理による影響を受けないと考えられていた。これに対して本研究では,カタカナとローマ字の間で異なる結果が観察されたことから,ストループ課題が形態処理の影響を受けうることを示した。すなわち,カタカナ語に対してはモーラの共有による促進効果が観察されたのに対し,ローマ字表記語に対しては先頭音その共有による促進効果が観察された。このことは,文字列を無視することが要求されるストループ課題においても,文字表記の種類という形態処理が色の命名という音韻処理に影響を及ぼすことを示していると考えられる。
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