本研究においては,ひきこもり状態の改善において,これまで暗黙のうちにプロセス変数として想定されてきた家族の心理的ストレスや否定的認知の影響性を明らかにすることに加えて,直接的にひきこもり状態を改善させられる可能性がある家族の「対応レパートリー」や「随伴性認知」に焦点を当てて,プロセス変数を包括的に検討した。 16歳以上の子どもをもつ親を対象に調査を実施し,ひきこもり経験のある子どもをもち,かつ,ひきこもり状態について支援機関または家族会を利用したことのある親218名(経験群),加えて,ひきこもり経験のない子どもをもつ親257名(非経験群)に回答を依頼した。参加者は,心理的ストレス反応,ひきこもりに対する否定的認知,対応レパートリー,随伴性認知,ひきこもりに関する子どもの適応的行動を測定するための調査材料に回答した。 分析の結果,経験群は非経験群よりも,心理的ストレス反応および対応レパートリーが高く,否定的認知および子どもの適応的行動が低いことが示された。その一方で,随伴性認知においては群間に有意な差異は認められなかった。また,経験群においては,支援利用前と比べて現在は,心理的ストレス反応および否定的認知が低く,対応レパートリーおよび子どもの適応的行動が高いことが示された。 さらに,経験群において,心理的ストレスを独立変数,子どもの適応的行動を従属変数,対応レパートリーを媒介変数,随伴性認知を調整変数とした調整媒介分析を行なった結果,随伴性認知が低い場合に対応レパートリーの間接効果が有意であったが,随伴性認知が高い場合には間接効果は有意でなかった。この結果は,ひきこもり状態の改善を目指す家族支援においては,心理的ストレスを低減させるアプローチだけでなく,対応レパートリーや随伴性認知に焦点を当てることによって,その効果を高めることができる可能性を示している。
|