研究課題/領域番号 |
18H05831
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤野 弘基 名古屋大学, 高等研究院(多元), 特任助教 (90824037)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 普遍タイヒミュラー空間 / 擬等角写像 / 反ド・ジッター空間 / 極大曲面 |
研究実績の概要 |
本研究計画における一つの研究ステップである、「タイヒミュラー空間を極小ラグランジュ擬等角写像のベルトラミ係数の空間として、本質的有界関数全体の空間に埋め込み理想境界を構成する」という研究について幾つかの進展が得られた。 ボンサンテ・シュレンカーの結果によって、普遍タイヒミュラー空間は極小ラグランジュ擬等角写像の全体、および3次元反ド・ジッター空間内のガウス曲率が一様負な極大グラフの全体と1対1対応する。従って、極小ラグランジュ擬等角写像のベルトラミ係数を内在的に(ベルトラミ係数の性質によって)特徴付けることが本研究の目標ということになる。申請者の過去の研究によって、ラグランジュ擬等角写像が極小性を持つための必要十分条件がベルトラミ係数の条件として得られている。従ってあとは擬等角写像がラグランジュ性を持つための条件を求めれば良い。一方で極小ラグランジュ擬等角写像の非自明な具体例は知られておらず、それ故具体例を用いた観察を行うことができなかった。当該年度では、反ド・ジッター空間内の極大曲面の具体例を構成することによって極小ラグランジュ擬等角写像の具体例の構成を行った。 ローソンによる線織極小曲面の構成法を参考にすることによって、3次元反ド・ジッター空間内においてもある種の線織極大曲面の族を構成することができた。特に、このようにして構成した極大曲面の族は、(ガウス曲率が恒等的に-1となる曲面である)全測地的平面と、(ガウス曲率が恒等的に消えているものである)双曲シリンダーを結ぶものである。これは、普遍タイヒミュラー空間内で境界に発散する曲線が得られたということにもなり、本研究において重要な具体例を与えている。さらに、この曲面族に対応する極小ラグランジュ擬等角写像をパラメータ表示で与えた。またその他の極大グラフについても、一般的な構成法として表現公式を構成するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画において大きな位置を占めているのは、退化現象を記述するのに適した「理想境界の構成」である。これに対し、種々の擬等角拡張定理(例えばアールフォルス・ブーリン拡張など)に対し、対応する擬等角拡張のベルトラミ係数全体としてタイヒミュラー空間を有界関数全体の空間に埋め込むという方法を考えた。特にボンサンテ・シュレンカーによる極小ラグランジュ擬等角拡張について研究を進める計画であった。これは他の擬等角拡張定理と比較して、擬等角拡張自体の性質、即ち極小ラグランジュ擬等角写像自体の性質がはっきりとしたものであるという利点があった。一方で、境界値関数(タイヒミュラー空間の元)から具体的に擬等角拡張を計算することは困難であり、それ故極小ラグランジュ擬等角写像の具体例が全く知られていないという欠点があった。 以上の問題点に対し、研究実績の概要欄で述べた通り、極小ラグランジュ擬等角写像の具体例を計算可能なレベルで構成できた。特にその具体例はタイヒミュラー空間の基点となる恒等元から典型的な境界点を結ぶ1径数族となっているため、重要な具体例が得られたと言える。従って、当該年度に得られた具体例を解析することによって研究の進展が見込まれる。即ち、極小ラグランジュ擬等角写像のベルトラミ係数の特徴付けに対して足がかりが得られた(今後の研究の推進方策欄参照)。またこれ以外においても、上述の具体例は反ド・ジッター空間内の極大グラフにおいて典型例ともいえる退化現象に対応しており、それ故ボンサンテ・シュレンカー対応自体を観察する有用な具体例が得られたと考えられる。従って、曲面論的に意味のある退化現象(変形族)に対し、対応するタイヒミュラー空間での退化現象(曲線)がどのように対応しているか観察可能となるのである。 以上の理由から、本研究課題の進捗はおおむね順調であると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要欄に記した通り極小ラグランジュ擬等角写像の具体例が得られたため、これらを用いて数値的な観察を行うことが可能となった。まずはこの数値計算による観察によって、擬等角写像がラグランジュ性を持つための条件を調べる。ラグランジュ性が局所的な性質であることを考えると、求めたい性質は各点周りのベルトラミ係数の挙動によって現れることが期待される。例えば各点周りでのある種の積分量に関して関係式(積分方程式)が得られた場合、アールフォルス・ベアスあるいは柳原による標準擬等角写像の公式に当てはめることによってラグランジュ性に対応するか確かめる。 また当初計画の通り、Z.Heによる擬等角写像の近似的構成法の双曲化についても研究を進める。この場合、双曲円板を(双曲)三角形分割し各三角形毎に標準的なラグランジュ擬等角写像を割り当てることになる。ここで、その標準的ラグランジュ写像の構成において上記の研究が重要な役割を果たす。実際、標準的ラグランジュ写像が三角形の頂点および辺において満たすべき必要十分条件が必要であるが、これは上記研究から導かれるものである。 以上までの、「擬等角写像に対する極小ラグランジュ性のベルトラミ係数による特徴付け」あるいは「極小ラグランジュ擬等角写像の近似的構成」を用いて、無限次元タイヒミュラー空間内の退化現象について研究を行う。この場合、まずは整数点全体を除いた複素平面などの擬等角変形をモデルに具体的な計算を行い、これまでに得られている退化現象について対応するベルトラミ係数の退化現象を観察する。その上で、具体例による観察をもとに退化現象の分類を定式化する。可能であれば、理想境界上で(良い)測度が定義されるか研究を行い、分類された退化現象ごとの分布を調べる。あるいは理想境界上に定まる相対位相に関して、分類された退化現象ごとの位相的性質を調べる。
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