タイヒミュラー空間におけるリーマン面の退化現象の研究として、退化の様子をボンサンテ・シュレンカー対応を用いて可視化することを試みた。この対応は「タイヒミュラー空間」と「三次元反ド・ジッター空間内のある種の完備極大曲面全体」との間の一対一対応である。従って抽象的なリーマン面が反ド・ジッター空間という三次元時空内の具体的な曲面に置き換わり、退化の様子や退化極限を実際に目で見ることが可能となる。 具体的な退化列の観察から始めたかったが、完備極大曲面を構成すること自体が難しい。抽象的な構成法として「グラフ型表現公式」を2018年度の研究で得たが、具体例の構成には不向きである。これは反ド・ジッター空間が曲がった空間であるため、調和写像方程式が複雑になってしまうことによる。一方、平坦時空(ミンコフスキー空間)では「グラフ型表現公式」が同様に構成でき具体例の構成も容易である。本年度は「グラフ型表現公式」の一般的な扱いを調べるための基礎研究として、ミンコフスキー空間内の極大曲面に関する「グラフ型表現公式」について研究を行い以下に述べる成果を得た。またその成果を二編の論文に著した: 一つは「ユークリッド空間内の極小曲面」と「ミンコフスキー空間内の極大曲面」との間の双対対応に関する結果で、前者に対する「無限境界値問題」が後者に対する「光的線分境界値問題」に対応することを示した。また双対対応をグラフ型表現公式を用いて定義できることを示したため、反ド・ジッター空間の場合でも双対対応を考えることが可能になった。 二つ目は、ミンコフスキー空間内の極大曲面に対し「光的線分に関する鏡像原理」を発見した。この結果はシュワルツの鏡像原理から従うものではなく、「直線(測地線)に関する鏡像原理」の研究における重要な未解決問題を部分的に解決するものである。またこれにより複雑な周期極大曲面の構成が可能となった。
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