2019年度の研究実績としては,まず,超特別性を判定するツールであるHasse-Witt行列(コホモロジー群上のフロベニウス写像を表す行列)の計算の枠組みを大きく進展させた.具体的には,既存結果では特定の曲線(超楕円など)のみに計算手法が確立されていたが,本研究では一般次元の代数多様体への拡張に成功し,特に完全交叉(種数4,5の非超楕円曲線など)の場合に高速なアルゴリズムを開発した.この結果は2019年6月の査読付き国際会議MEGA2019に論文が採択され,現在そのfull paperを国際雑誌に投稿中である.また,本結果に対し日本数式処理学会若手研究者賞の受賞が決定している. 次に,原下秀士氏・千田駿人氏(横浜国立大学)との共同研究で,Hasse-Witt行列に関わる高度な計算を駆使し,標数5以上で種数4の超特異曲線が必ず存在することを証明した.既存結果(標数2,3)と併せることで,任意の標数に対する種数4の超特異曲線の存在が明らかとなった.種数3以下と異なり種数4での任意標数に対する存在性は全く知られていなかったため,本結果は当該分野における大きな進展である.この結果は国内外で高く評価され,2019年10月に国際研究集会Supersingular Abelian Varieties and Related Arithmeticにて依頼講演を行った.結果をまとめた論文を国際雑誌に投稿中である. さらに,安田雅哉氏(九州大学)らとの共同研究で,超特異楕円曲線間の同種写像の高速計算法を開発し,暗号分野への応用可能性を示した.結果をまとめた論文は2019年8月に査読付き国際会議MathCrypt2019に採択されており,現在full paperを国際雑誌に投稿中である. その他として,原下氏らとの共同研究でこれまで得られていた結果をまとめた論文3件が,国際雑誌に掲載が受理された.
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