研究計画に記載したように、量子少数系の研究、そしてそれを量子多体系に応用する研究の両者を行った。具体的には、まず前年度に引き続き、量子少数多体クラスターに関する理論研究を行った。前年度に行った集中講義を基に、強く相互作用する冷却原子・固体電子・原子核にわたる量子少数クラスターに関するレビューをした講義ノートを執筆し、『原子核研究』で出版した。これは、量子少数クラスター、特にエフィモフ状態と呼ばれる3体束縛状態に関して日本語で執筆された初めての包括的なレビューである。また、量子3体系において角運動量が大きな量子系の研究を行った。従来の手法を角運動量がより大きな量子3体系に拡張し、量子3体厳密計算を行った。その結果、原子間のvan der Waals相互作用の遠距離部分に由来する特徴的な挙動が現れることが明らかになった。さらに、これまで行ってきた3体束縛状態の研究を量子多体問題に応用する研究を行った。具体的には、ビリアル展開を用いて量子3体問題の厳密解を使って量子多体系の高温領域における状態方程式を正確に決定するという研究を行った。またその状態方程式を用いて、様々な観測可能な物理量も理論的に求めた。その結果を用いて冷却原子気体で実現可能なパラメータ領域において、どのような状態・挙動を示すかを調べた。その結果エフィモフ状態に起因する量子3体相関が強く効くような現象が観測可能な領域に存在しうることを発見した。
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