研究実績の概要 |
本年度の研究により、マグノン励起特性とスピンゼーベック効果(SSE)の関係が実験的により明らかとなった。代表的な成果として(1)擬二次元強磁性体CrSiTe3, CrGeTe3と(2)Lu2Bi1Fe4Ga1O12(LuIG)の SSEについて述べる。(1)CrSiTe3, CrGeTe3は面間・面内方向で異方的なマグノン分散関係を有しており、面間方向のスピン相関はキュリー点(CrSiTe3:~31 K, CrGeTe3:~65K)直上で消失するにも関わらず、面内方向は室温下でも残ることが中性子散乱から示唆されている。この物質でSSE測定を行うと、信号がキュリー点付近では有意となる一方、室温では消失することが明らかとなり、これによりSSEの発現にはPt膜直下の面内スピン相関だけではなく、面間のスピン相関が重要であることが示唆された。(2)ブリルアン光散乱によりLuIGのマグノン寿命を定量し、従来のYIGと比べ有意に短いことを見出した。この結果と理論モデルを組み合わせることで、LuIGで観測されたマグノン-フォノン混成によるSSEの増強の起源に迫ることに成功した。 また、J-PARCで遂行した磁性絶縁体Tb3Fe5O12(TbIG)の磁気励起の解析及び、LLG方程式に基づく計算との比較を進めた。これによりTbIGにおいて生じるSSE信号の符号反転は、TbIGの光学マグノンモードとそのギャップの温度依存性の観点から定性的に説明されることを見出した。 また、フランスILLで実施したYIGの偏極中性子実験を論文としてまとめた(投稿中)。本研究を通じ、マグノンの極性が初めて定量評価され、これまで間接的にしか得られていなかったYIGのフェリ磁性としての特性を実験的に見出すことに成功した。この手法を今後TbIGに適用することで、TbIGのSSEの符号反転の起源に迫る。
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