研究課題/領域番号 |
18H05843
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小林 拓矢 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (50827186)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 有機伝導体 / 超伝導 / 強相関電子系 / 磁性 / 核磁気共鳴 / スピン密度波 |
研究実績の概要 |
有機導体λ-(BETS)2GaCl(4-x)Br(x)において、xを変化させたときの相図が報告されている。x=0で超伝導を示し、xを増やしていくと絶縁化していく。一方でその磁性は磁化率の振る舞いから非磁性であると考えられていたが、実際にスピン磁化率が消失しているわけではなく、未解明な点が多い。本研究では超伝導相ごく近傍の絶縁相の磁気状態を調べるために、x=0.75の試料において、13C-NMR及び電気抵抗測定を実施した。その結果、13Kで金属絶縁体転移を伴った、核スピン-格子緩和率の発散が観測された。これは超伝導相にスピン密度波相が隣接することを示しており、超伝導の発現機構を考慮する上で重要な鍵となる発見である。 一方λ-D2GaCl4(D=ET,STF,BETS)において、ドナー分子D置換による統一相図が報告されている。BETS塩は常圧で超伝導、STF塩は1.2GPa以上の圧力下で超伝導を示すことが分かっているが、ET塩においては超伝導の報告例はない。そこでET塩に対して、キュービックアンビルセルを用いた超高圧下電気抵抗測定を行った。8GPaまでの圧力を印加したところ、電気抵抗率は大きく抑制されたが、金属及び超伝導への転移は観測されなかった。これは超高圧を印加しているために格子の変形が誘起されるなど、物理圧力とドナー分子置換による化学圧力の効果が異なる可能性が考えられる。 ドナー分子置換による統一相図の更なる知見を得るために、BEST分子置換に着目した。この物質はCuiらによって報告されているものの、統一相図との関連は議論されていない。ET分子からBEST分子への置換効果は有機導体κ-(ET)2X塩において負の圧力効果があることが報告されている。BEST塩がλ塩の反強磁性相の研究に資する可能性を期待し、試料合成を試みたところ、純良かつ単一の試料が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
λ-(ET)2GaCl4塩における超高圧下電気抵抗測定を実施できた点については、研究が順調に進んでいることを示している。 一方でλ-(BETS)2GaCl4-xにおけるスピン密度波相の発見やλ-(BEST)2GaCl4の新規合成の成功は望外の進展である。超伝導相に隣接してスピン密度波相が隣接していることはλ-(BETS)2GaCl4の超伝導の発現メカニズムを考察する上でも重要な発見である。またλ-(BEST)2GaCl4の研究が進み、ドナー置換型統一相図にのることを実験的に示すことが出来れば、λ型有機導体の統一的な理解が大きく進むことが期待される。 以上を総合的に踏まえて、本研究は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度新たにλ-(BEST)2GaCl4の合成に成功した。この物質はドナー分子置換による統一相図で理解できる可能性があり、物性の同定が望まれる。予備的な磁化測定から、反強磁性転移を示唆する結果が得られている。来年度は、異方性を含めた磁化測定及びμSR実験を実施し、低温の磁気状態を解明することを目指す。これらの実験には大量の試料を必要とするため、今後継続的に試料合成を行っていく。また、BEST塩に対しても超高圧下電気抵抗測定を実施し、ET塩との比較を行う。
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