本度はヒューズ内アークに対してStreakカメラ型分光器を使用した分光観測や前年度に構築した二次元分光器を用いた観測を実施することで,ヒューズ内アークの組成診断,銅蒸気二次元分布および銅蒸気濃度を検討した. Streakカメラ型分光器の結果から,ヒューズ内部アークに対するSi II励起温度の時間変動を導出した.また,Si IIとCu Iの放射強度比の時間変動を導出した.さらに,ヒューズ内アークの化学組成計算から,Si II/Cu I放射係数比を温度や銅蒸気混入率の関数として導出した.Si II/Cu Iの放射強度比の実験値と理論値を比較することで,ヒューズ内アークの銅蒸気濃度の時間的な変動を検討した. その結果,珪砂が封入された限流ヒューズでは,電流の減衰に伴う温度低下と共にヒューズ内アークの銅蒸気濃度はほぼ低下しないことが明らかになった.これが限流ヒューズを用いた直流大電流の限流遮断時において,高いアーク電圧が保持できない主要因の一つであると考えられる. ヒューズ内アークで高銅蒸気濃度が維持される原因を解明するため,Cu Iに対する二次元・時間分解分光観測を実施した.その結果,ヒューズ内アークの高い銅蒸気濃度維持は以下が原因であることが示唆された:(1) アーク点弧時に大量のCuエレメント蒸気が拡散.(2) 遮断過程でアーク周辺に珪砂の溶解・再固化物(フルグライト)が生成.(3) フルグライト内側にCu蒸気が付着.(4) 電流減衰過程でフルグライトに付着したCuが再蒸発しアーク内にCu蒸気を再供給. 別途行ったヒューズ内部の形状を変化させた実験から,ヒューズ内で軸方向の対流を作ることでCu蒸気が拡散し,Cu蒸気濃度を低下させることが可能であることが判明した.上記の様に,ヒューズ内アークに対するCu蒸気濃度診断や診断結果を用いたヒューズの改良に成功した.
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