研究課題/領域番号 |
18H05851
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
白戸 高志 大阪大学, レーザー科学研究所, 特任研究員 (10827520)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 計算物理学 / 核融合プラズマ |
研究実績の概要 |
今年度は、確率的な衝突による散逸過程を記述する相対論的Landau-Fokker-Planck方程式に対する質量・運動量・エネルギー保存スキームの原理実証に成功した。この方程式に対して運動量とエネルギーの保存則を導出するには、Beliaev&Budkerの散乱カーネルに関する等式が必要である。しかしながら、一般的に数値計算では打ち切り誤差の存在によりこれらの等式が成立しなくなるため、保存則はしばしば破られる。特に、相対論領域ではエネルギーを運動量に関する多項式として表現するには無限の項数が必要であるため、数値計算上でエネルギー保存を満足することは困難であると認識されてきた。本研究では、因数分解によりLorentz因子を変形することで、多項式ではなく有理関数の形でエネルギーの運動量差分を表現した。これを用いることで、相対論的Landau-Fokker-Planck方程式においてエネルギー保存則を離散化レベルで満足するのに必要な関係式を得た。通常Beliaev&Budkerの散乱カーネルを計算するには引数である運動量を直接代入するが、むしろエネルギーを運動量で差分して得られる速度を元に計算しなければならないことがわかった。相対論的熱緩和問題による数値実験の結果、従来の手法では不可能であった質量・運動量・エネルギー保存則を同時に満足することに成功した。また、保存則のみならず、初期の平衡分布を仮定した線形理論によるエントロピー増幅率をよく再現し、最終的に平衡状態に到達することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では積分微分方程式であるLandau-formではなく、連立微分方程式であるポテンシャル形式によるスキーム開発を行うとしていた。しかしながら、相対論的なポテンシャル方程式は演算子が非線形となるため、保存スキームの導出が困難であることがわかった。そのため、相対論領域における保存スキームの原理実証自体は計算科学的に意義のある成果であるが、少ない計算コストで実用的なシミュレーションを行うという最終目的に合致するものではないため、更なる展開が望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は一度非相対論的なポテンシャルであるRosenbluth-formに立ち返り、保存スキームを構築する。すでに解析的な検証は終了しており、Rosenbluthポテンシャルに対する完全保存スキームは比較的容易に構築できる見通してある。もし相対論では困難な完全保存スキームが非相対論では容易に構築できるならば、この原因は演算子の非線形性によるものであると結論づけることができる。そのため、その後は線形な演算子のみで相対論的ポテンシャル形式を扱うことを目指し、理論的な研究を開始する予定である。
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