研究課題
本研究計画では当初磁性絶縁体中のスピン波が作りだす誘電分極に関する理論研究を行う予定であったが、諸般の事情で研究協力者による検証実験の目途が立たなかったため関連した研究課題である音波とスピン波の結合に関する研究を行ってきた。令和3年度は、自発電気分極を持つ強誘電体であるビスマスフェライトを含む多層膜構造においてスピン波と音波が結合することでスピン波の伝搬距離が2桁程度も増加することを明らかにした。強誘電体においては音波が電気分極の揺らぎも伴っており、それによって音波を電場によって励起し、また電圧測定によって容易に検出することができる。今回Beihang大学のグループで行われた実験では、ビスマスフェライト中のスピン波が1mm程度の距離を伝搬することを確認した。研究代表者は実験で得られた伝搬特性の磁場角度依存性から、長距離伝搬がビスマスフェライト中の電気分極を帯びた音波との結合に起因することを推察し、検証実験を提案した。スピン波伝搬ダイナミクスの直接測定によってスピン波がスピン波自身の速度よりも速い音波の速度で伝搬していることが確認され、音波との結合が重要な役割を担っていることが明らかになった。スピン波の長距離伝搬は磁性体を情報処理に応用するために必要となる技術の一つと考えられており、この発見によって強誘電体中の音波とスピン波の結合に関する研究がさらなる注目を集めることが期待される。この研究成果はNature Communicationsに掲載された。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Journal of Magnetism and Magnetic Materials
巻: 545 ページ: 168672~168672
10.1016/j.jmmm.2021.168672
Nature Communications
巻: 12 ページ: 7528
10.1038/s41467-021-27405-2