研究課題/領域番号 |
18H05858
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野田 浩司 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (00816837)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 高エネルギーガンマ線 / 突発天体 / ガンマ線バースト / チェレンコフ望遠鏡 / 電源システム |
研究実績の概要 |
本研究は、チェレンコフ望遠鏡アレイ(CTA)国際共同実験において、ガンマ線バーストなどの突発天体を理解することを目的としている。発生した突発天体に素早く望遠鏡を向ける際には、大電力を供給するための特別な電源システムが必要となる。 2018年度には、すでに設置済みの1台目望遠鏡について、電源システムを観測システムに統合するための開発・設置を行った。電源システムはUPS部とフライホイール部に分かれるが、これらは別々に開発されたために、これらをまとめて監視するために新たな別のProgramming Logic Controller (PLC) を導入した。このPLCには、3つの機能を搭載した。まず、上記2つの部分のいずれかで問題を検知した場合に望遠鏡駆動部に直接信号を送って緊急停止を促す仕組みを作った。緊急停止を行う際には処理時間をできるだけ短くする必要があるため、PLC同士での信号の直接的な送受信を実装した。次に、監視中の電源システムの状況をCTA全体のシステムに統合するために、情報をOPCUAと呼ばれる規格で上層に伝えられるようにした。これについては、OPCUAでの情報伝達が可能なPLCを最初から選択することで容易に実装された。最後に、これらの情報を表示するためのGraphical User Interface (GUI) を実装した。これは既に現地で観測オペレータが常駐する場所に常時表示され、使用されている。 上記は望遠鏡ごとに設置される電源システムだが、これとは別に、停電時に稼働するディーゼル発電機があり、4台の望遠鏡に対して1つだけ設置されている。これについても、上記と同じPLCを設置し、OPCUA監視とGUIモニターを開発した。 上記全ての開発結果について、共同研究者(東京大学宇宙線研究所所属の大学院生)が国内学会での発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
観測地であるラパルマには、合計4台の大口径望遠鏡が設置される予定であり、その1台目が2018年度の10月に竣工式を迎えた。これは既に当初の計画からやや遅れるものであったため、必然的に同望遠鏡の電源システムに関わる開発も遅れることとなった。しかし、当初は1台目の望遠鏡が既に稼働していることが想定されていたため、本研究での開発を2台目の電源システムを用いて行う計画であったが、上記遅れに伴い、1台目の望遠鏡の電源システムを使って開発を始めることが可能となり、結果的にその後の設置・運用への移行時に時間のロスがないというメリットがあった。 また、開発を進めていく上で、購入したPLCの使い勝手が非常によいことがわかったため、急遽ディーゼル発電機システムにも同じものを入れることにした。これも良い判断だったと考えている。特に、同PLCではGraphical User Interfaceが簡単に作れるというのは予期せぬ幸運であった。観測を進める上で、オペレーターが常時監視できるようなGUIがあることは大きなメリットである。 本研究の大目的である突発天体の物理についても、昨年度中2019年1月に、同じ観測地(1台目大口径望遠鏡の隣)で稼働中のMAGIC実験によりガンマ線バーストの初検出が遂に達成された。本研究者はこのデータ解析に中心的に関わっている。今後CTAの大口径望遠鏡を使ってガンマ線バーストなどの観測を行っていく上で非常に有利となると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度最初にはまず、既に1台目で稼働中のシステムを2-4台目の電源システムに設置することを考えている。2-4台目の望遠鏡はまだ完成していないが、電源システムについては既に観測地で稼働しつつ保管中であるため、PLCなどのデバイスを設置していく上での支障は全くない。また、1台目望遠鏡での経験を受けて、現在ネットワークの構築法を変更する計画があり、これに伴って、いくつかのデバイス追加や変更が必要となると考えられる。これら2つを行うために、2019年度後半に観測地への渡航を計画している。 今年度の後半には、大口径望遠鏡を用いた試験観測が本格化する可能性が高く、かに星雲やブレーザーなどの明るい天体だけでなく、ガンマ線バーストなどの突発天体に向けた観測を行う可能性が高い。MAGIC実験での初検出を受けて、高エネルギーガンマ線による突発天体の物理という分野そのものが活性化しており、大口径望遠鏡による初期成果がもたらすインパクトは大きいと予想される。
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