本研究では多波長モンテカルロ輻射輸送計算コードを用いて、放出物質の質量、速度、密度分布、物質構成を系統的に変えたkilonova光度曲線の計算を行った。特に、最新の数値相対論シミュレーション、元素合成計算、さらにr-process元素の原子計算の結果をベースにし、想定される様々な合体シナリオにおける光度曲線の特徴を予測した。それらの結果から複数のバンドフィルターに対するkilonova光度曲線のピーク光度・時刻からkilonovaの中心エンジンの種別に迫れる可能性を提示した。さらに今年度は実際の観測への適用に力を入れた。γ線バーストGRB160821Bの残光に見られた増光の中でも特に可視光~赤外線波長域での成分の解釈として、系統的計算によって得られたkilonovaの光度曲線を適用し、GRB160821Bが中性子連星合体起源であった場合の放出質量に対する見積もりを与えた。また、LIGOとVirgoによる最新の重力波観測とそれらに対する電磁波対応フォローアップ観測の結果に対して、系統的計算によって得られたkilonova光度曲線モデルを適用して、重力波源の物理的パラメータの制限を行った。連星中性子星合体からの重力波と整合するイベントであるGW190425についての研究では、得られた電磁波対応天体の観測上限からそのイベントがブラックホール中性子星連星合体である可能性を考慮し、母天体の物理的性質について議論した。ブラックホール中性子連星合体と考えられる重力波イベントS190814bvでは、フォローアップ観測によって得られた電磁波対応天体の上限を元に、イベントで放出された物質の質量に対する制限を与え、重力波観測によって得られるチャープ質量などの情報と合わせて中性子星の質量-半径関係に制限を与える方法を提案した。
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