研究課題
本研究では中性子偏極デバイス:3Heスピンフィルターの開発を行い、139Laの偏極中性子吸収反応を測定を行うことを目的としている。今年度はJ-PARCの中性子ビームラインANNRIに3He偏極保持用のコイル、磁気シールド、3He偏極反転装置などを導入し、3Heスピンフィルターを用いた本実験を行った。実験時の3He偏極率は60%と、十分高いとまでは言えないものの、130時間程度の十分長い3He偏極緩和時間を達成することに成功した。139Laから放出されるガンマ線の角度分布はANNRIに設置されているゲルマニウム検出器群を用いて測定された。計3回の偏極中性子ビーム実験の結果、139Laが偏極中性子を吸収し5161 keVのガンマ線を放出する過程において、ガンマ線放出方向に上下アシンメトリーがあることを発見した。本結果は論文としてまとめられ(arXiv:2002.08655v1 [nucl-ex])、現在論文投稿中である。また、昨年度に立ち上げた真空システムを用いて計8個のハイブリッド型3Heスピンフィルターを作製した。J-PARCの中性子ビームを用いて性能評価を行ったところ3He偏極率85%, 緩和時間170時間程度の高い性能を持つことが確認された。このスピンフィルターは1eV程度の中性子を高い偏極率で偏極させるという観点から見れば、まだ3He量を増やす余地があるものの、3He偏極率、偏極緩和時間としては世界最高レベルである。上述の物理実験にこの高偏極スピンフィルターを使用することは間に合わなかったが、J-PARCにて高性能の3Heスピンフィルターを作製、運用する環境を構築することができたと言える。
2: おおむね順調に進展している
3He量、3He偏極率の観点から改善の余地があるものの、当初の予定通り、3Heスピンフィルターを用いた偏極中性子吸収反応実験を行い、物理結果を得ることに成功した。また性能の良い3HeスピンフィルターをJ-PARCで作製することに成功し、3Heスピンフィルターの運用も順調に行われている。
3He偏極率の高い3Heスピンフィルターを用いて、より高精度にガンマ線角度分布測定実験を行う予定である。得られたガンマ線角度分布を解釈するための理論研究に関しても議論を進める。また、今後、より3He量の多い3Heスピンフィルターを作製し、高い偏極率で熱外中性子を偏極するための研究を続けていく。
コロナウイルス蔓延の影響で学会が中止となり参加できなかったため、翌年度の学会参加のために使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Proceedings of Science
巻: KMI2019 ページ: -
10.22323/1.356.0029
arXiv
巻: nucl-ex ページ: 2002.08655
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https://doi.org/10.1051/epjconf/201921909001
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巻: KMI2019 ページ: 42
10.22323/1.356.0042