これまでの記載的な研究で天然の火山ガラス中に無数のナノ結晶(ウルトラナノライト)が晶出していることがあることが明らかになった。これはマグマの粘性がナノ結晶の晶出により劇的に増加し、噴火様式を支配している可能性を示唆する。この結晶作用が起こる条件を決定するため、結晶の核形成・成長のその場観察実験を、本分野において世界唯一である加熱ステージを備えた高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて行った。温度・酸素雰囲気・真空度の条件を系統的に変えた実験を行い、実験産物の分析をFE-SEM、集束イオンビーム(FIB)と透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行った。最終年度はこれらの分析の解析と実験動画のまとめを主に行った。その結果、30nm以下の高数密度で晶出するウルトラナノライトと、それよりも大きく数密度の低いナノライト・マイクロライトの結晶化条件・成長機構が明らかになった。ウルトラナノライトの形成は、ナノライト・マイクロライトへと変化する連続的な結晶成長の初期過程ではなく,ガラス転移点付近の高過冷却条件下で生じると考えられること、また,少なくとも実験を行った安山岩質マグマでは,ウルトラナノライトはマグマ破砕後の急冷過程では晶出せず,数分以上はマグマの温度を保持する必要があることがわかった.逆に言えば,マグマが火道浅部で脱ガスや冷却,酸化を受け,数分以上,ガラス転移点付近の温度にさらされる条件では,急速なウルトラナノライトの生成による物性変化を考慮する必要がある.さらに、高真空環境下においては、金属鉄、Ptにおいて、100nm以上の粒子であっても、近年提唱されている非古典的な核形成経路によく似た合体成長を観察することができた。天然の岩石において鉱物種は異なるものの似た組織を見つけており、合体による成長がナノ粒子や水溶液系に限らず生じている可能性を示唆する。
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