研究実績の概要 |
本研究の初年度は,南西諸島を中心とした水深100~400mの生息場の調査やサンプリング(ドレッジ,採泥調査)を行うため,産総研,広島大学,三重大学の航海調査に参加し,数多くの無藻性イシサンゴの生体および骨格標本を採集した.採集した生体サンゴは一部をDNA,RNA採収用に固定し,残りは水槽において継続して飼育している. 骨格分析に関してはオーストラリアのタスマニア海山周辺の水深1700mの深海サンゴ礁に生息する深海性イシサンゴを用い,サンゴの骨格形成様式,特に成長形態の変異の研究を進めた.これまで当該サンゴは単体として扱われてきたが,そのためひとつの個体から出芽が起こっている場合は一斉出芽などの不規則な出芽が起こった「偽群体」とされた.しかし,同一地点から得られた450個体以上の標本観察を行った結果,少なくても76%は骨格に出芽痕が残されており,2-4世代の群体形成がなされている.実際に出芽部位の検証を行うと特定の原隔壁と呼ばれる12か所からの顕著な出芽が認められた.このような出芽部位の限定は科の異なるキサンゴ科やビワガライシ科の複数のサンゴ種においても知られており,遺伝的な制約を示唆する. 出芽部位の観察では適した部位で断面や薄片を作成し,実体顕微鏡,偏光顕微鏡,SEM, EDXなどを用いて詳細に観察した.その結果,骨格表面にはマンガンなどの鉱物が被覆し黒く骨格が変色している.しかし,初生個体(原隔壁)と親個体間の微細構造の関係を観察すると,粒状結晶と繊維状結晶の存在様式が同じであり,両間に他の物質による明瞭な境界がないことが認められた.これらの結果は,当該サンゴがは二次的に幼生が付着した偽群体ではなく,環境に応じて群体を形成する高い形態学的可塑性を有し, corallum型すなわち, 単体または群体が深海イシサンゴ類において頑丈な分類形質ではない可能性を示唆している.
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