研究課題/領域番号 |
18H05872
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
宮本 佳明 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 講師 (90612185)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 台風 / エアロゾル |
研究実績の概要 |
台風は、海から流入した水蒸気が中心付近で凝結して生じる運動エネルギーで駆動する。具体的な駆動メカニズムは、(A)直下の海洋から流入する水蒸気が(B)眼の壁雲域で凝結し空気を加熱することで、下層の質量収束を生じ、(C)角運動量が内向きに輸送されて強化すると考えられている。即ち、台風が駆動するためには、眼の壁雲域で常に水蒸気が凝結し続けなくてはならない。凝結(水滴の形成)には、凝結核(Cloud Condensation Nuclei: CCN)が必須であり、大気中に浮遊するエアロゾルがCCNとなる。さらにCCNの数によって、対流雲の構造が変化することが提唱されている。これまでに台風に対するエアロゾルの影響を調べた研究はいくつか存在するが(例:Khain et al. 2013; Takahashi et al. 2017)、そのほとんどが台風によるエアロゾルの輸送など、台風にとって間接的な影響に着目しており、もっと直接的な強度や構造へのエアロゾルの影響は未解明である。そこで本研究では、エアロゾルの影響を解く気象数値モデルを用いて、台風の強度・構造に対するエアロゾルの影響を包括的に理解することを目的とする。 これまでに、エッセンスのみを抽出した簡易理論モデルと2種類の雲・エアロゾル過程を解く数値モデルを構築した。このモデルは、先行研究(Ooyama 1969)で構築された回転軸対称を仮定した台風の流れを自由大気2層・境界層1層で解く熱流体モデルに、CCNの活性化やそれに伴う数濃度の減少など簡易化したエアロゾルの過程を取り組んだものである。さらに、課題代表者がこれまでに構築した軸対象の台風モデル(Miyamoto and Takemi 2010)と、世界で幅広く使われる気象数値モデルの2種類にそれぞれ、雲・エアロゾル過程の詳細を解く精緻な数値モデルを結合させたモデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、エッセンスのみを含んだ簡易理論モデルと、以下の2種類の数値モデルを用いた数値計算とその結果の解析を軸としている: A)2次元軸対称モデル(Miyamoto & Takemi 2010、自身で構築したモデル)+雲・エアロゾルの数濃度を有限数のビンで区分けして表現する雲モデル(Suzuki et al. 2008) B)3次元モデル(Weather Research and Forecasting: WRF, Skamarock et al 2008、世界で最も利用される数値気象モデル)+ビン雲モデル(Khain et al. 2010) 台風へのエアロゾルの影響を調べるためには、計算負荷が非常に高いビン雲モデルが必須であり、さらに数km程度の解像度が必要になる。そこで、比較的計算負荷の小さい(A)2Dモデルと、負荷は大きいが精緻な結果が得られる(B)3Dモデルの両方の計算を並行して行う。これまでに、台風の基本的な駆動メカニズムを含んだ簡易軸対称理論モデル(Ooyama 1969)に、エアロゾルの基本的な過程(CCNの活性化やそれに伴う数濃度の減少など)を簡易的に表したモデルを組み込んだ理論モデルを構築した。それに加えて上の2つの数値モデルを構築して、予備実験を行った。台風に関しての実験設定は、多くの既往研究で用いられてきた台風の基礎研究用のものを用いた。エアロゾルに関しては、洋上の積雲研究での用いられた設定を用いた。現実的な結果が得られていることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
まず2D・3Dモデル計算を集中的に行う。年度後半はモデルの計算結果を解析し、台風の強度・構造に対するエアロゾルの影響を明らかにする。また、得られた結果を現実的な場に当てはめるべく考察を行う。2D・3Dの両モデル実験で同じパラメータ[計算初期値の台風の(a)強度・(b)最大風速半径(台風自体をコントロール)に加えて、背景場のエアロゾルの(c)数濃度、(d)下面及び(e)側面からのエアロゾル供給量]を調べる。両モデルのコンパイルからテスト計算まで行い、利用可能な状態にする。まず両モデルでのコントロールラン(エアロゾル関係のパラメータ以外は既往研究の設定と同じ)を行って、エアロゾルを考慮しない結果と比較する。妥当な結果が得られていることを確認した時点で、(A)2Dモデル・(B)3Dモデルの両実験を開始する。具体的な解析方法としては、まず台風の強度と、最大風速半径・強風半径といったサイズを表す変数の各パラメータ依存性を求める。続いて、収支解析を行って定量的理解を深め、強度・大きさへの影響の物理的理由も解明する。 今回利用する雲エアロゾル過程を解くモデルは計算負荷が非常に大きい。そのため、上述の様に2D・3Dの両モデルを利用し、各モデルそれぞれの計算が終了し次第、随時解析を行っていく。特に2D計算で一連の解析を行って定性的な結果を示しておき、3D計算の結果でそれを裏付けるという形で進める。2D計算は比較的早めに終了できることから、解析に十分な時間を割けるようになり、結果をより深く考察できることが期待できる。
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