本研究課題では、太陽の100-1000倍の質量を持つ中間質量ブラックホールの有力候補である、超高光度X線源(ULX)のX線放射機構、およびその周辺環境を明らかにすることを目的とする。本研究では、銀河中心の超巨大質量ブラックホールで使用された解析手法を初めて適用することで、代表的なULXの一つであるNGC 1313 X-1の変動するX線連続スペクトル中に、時間的に変動しない放射成分が埋もれていることを発見した。これは、降着流の外側に形成された幾何学的に薄い降着円盤からの黒体放射と考えられ、その内縁半径と光度から中心天体の質量とそこへの質量降着率が推定できる。同様な解析を他のULXに適用し、この放射成分が普遍的に存在するのか、またその放射スペクトルから中心天体の質量や、周辺に構成された降着流の幾何学構造を明らかにする。 研究過程で、解析対象のULXの一つであるNGC 1313 X-2が、周期的に明滅するULXパルサー(中性子星)であることが判明し、「ULXの中心天体がブラックホールである」という作業仮説が崩れてしまった。しかし、これを逆手に取り、上記の解析手法を中心天体が約1.4太陽質量と分かっているULXパルサーにも適用することで、その放射機構を明らかにし、中心天体の質量推定法の較正を試みた。 代表者は今年度、ULXパルサーであるNGC 300 ULX-1に上記の解析手法を適用した。NGC 1313 X-1で発見したのと同様な変動しない放射成分に加えて、中性子星の自転に合わせて変動する放射成分のスペクトルを分離することに成功した。さらに、後者の放射成分が自転周期の位相で形状変化することを突き止め、自転する降着流が、実は2つ以上の温度の放射領域から構成されることを初めて明らかにした。上記の結果を論文にまとめ投稿し、査読者から肯定的なコメントをもらったため、再投稿の準備を行った。
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