研究実績の概要 |
本研究は、大気中の酸素、二酸化炭素、およびメタンの濃度を規定する地球表層圏での主要生元素(C, N, P, O, S)循環を包括的に考慮した数値モデルを開発し、地質記録を制約条件とした統計手法と組み合わせることで、原生代の大気組成を制約し、その背後にある物質循環を解明することを目指す. 当該年度においては、まず全球酸化還元収支モデルの開発とモデル結果の検証作業を行った.そのうえで、地質記録に基づく海洋硫酸イオン濃度の制約と大気中酸素濃度の制約を課したモンテカルロシミュレーションを実施し、原生代中期の大気中メタン濃度の制約結果を得ることに成功した.その結果、(1)地質記録と整合的な海洋硫酸イオン濃度を実現するためには、当時の海洋一次生産が現在の25%程度と低くなければならないこと、(2)低生物生産のために海洋から大気へのメタンフラックスもそれほど大きくなく(~100 Tmol/yr)、大気中メタン濃度は~10-20 ppmv程度であったことなどが明らかとなった. 上記数値実験では、大気中酸素濃度は地質記録に基づく範囲の値で境界条件として与えられている.本研究では、次の課題として、海洋物質循環や大気光化学反応および陸域風化作用によって大気酸素濃度がモデル内で自律的に決定できる数値モデルの開発を進めた.モデル開発は順調に行われ、固体地球内部からの還元ガスの流入率を境界条件として大気中酸素やメタン濃度が求められることを確認した.一方、条件によっては全球酸化還元収支が成立するまでの数値積分に時間を要することが判明した.新規計算機の導入だけでなく、スキームの改良点についての検討を行う必要がある.
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