研究課題
本研究では,水蒸気噴火を過去に繰り返し,現在でも活発な地熱地帯を形成している立山地獄谷と箱根大涌谷を対象に,噴気・温泉水の分析を行い,水蒸気噴火発生場としての熱水系の構造の推定を行った.立山地獄谷では,4万年前以降繰り返し水蒸気噴火が発生しており,現在も活発な噴気と温泉活動が見られる.2018年8月に,温泉水・噴気の採取を行った.地獄谷の噴気・温泉水は,マグマ性成分を高く保持し,地下浅部で気液二相状態にあることが,化学組成および同位体比組成から示唆された.また一部の温泉水は,化学組成の時間変化が大きく,気相に由来していることが推定され,気液二相に分離した際の温度を反映していると考えられた.水蒸気噴火は,地下浅所で発生していると考えられるため,これらの温泉水は,火山活動を評価するモニタリング項目としても期待される.箱根大涌谷では,2015年6月に小規模な水蒸気噴火が発生した.2018年7月,2019年1月に大涌谷とその周辺で火山ガスの採取を行った.噴気ガスの化学組成および水の同位体比分析から,大涌谷内に存在する噴気ガスは,マグマ由来成分を高く保持しているが,大涌谷の外側のガスは,火山性流体の熱水系内での滞留時間が長いため,マグマ性成分が失われていることが示唆された.また,大涌谷の500mの深さの領域では,気液二相状態にあることがわかった.また大涌谷内の噴気ガスは,化学組成の時間変化が,それぞれ異なっていることがわかった.
2: おおむね順調に進展している
初年度は,立山地獄谷・箱根大涌谷の温泉水・噴気の採取調査を予定通り行うことができたが,数値実験に関しては結果を出すに至らなかった.立山地獄谷では,申請者がこれまで続けてきた噴気・温泉水の採取地点で,継続して採取することができ,時間変化から熱水系の変化について議論することができた.箱根大涌谷では,計画以上に噴気の採取を行うことができ,噴気の化学組成の時間変化を観測することができた.数値実験に関しては,計算環境を整えることができたものの,それ以上の作業を進めることができなかった.
温泉水・噴気の化学調査に関しては,初年度と同様に進めていき,化学・同位体比組成の時間変化の観測を行いたい.また,他の火山活動のデータと比べ,熱水系内でどのような変化が起きているのか議論を深める.数値実験に関しては,シミュレーションソフトの支援ツールの購入を予定しており,スムーズに計算を行えるような環境を整え,箱根大涌谷を基にしたモデルで数値実験を行いたい.最終的には,水蒸気噴火の噴火予測をするために必要な観測パラメータを提案したい.
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Bulletin of Volcanology
巻: 81:8 ページ: 1-17
doi.org/10.1007/s00445-018-1264-7