研究課題
水蒸気噴火は国内外で数多く発生する噴火形態のひとつで,その発生機構は解明されていない.本研究課題では,水蒸気噴火が発生した,または発生しうる火山である,箱根大涌谷と立山地獄谷で,火山ガスおよび温泉水の化学分析を行なった.箱根大涌谷に関して,2018年7月以降,2015年の水蒸気噴火以降に形成された噴気を中心に,3度のサンプリングを行い,化学組成と水・硫黄の同位体比組成を測定した.このうち,地震・地殻変動があり噴火警戒レベルが2になるなど,火山活動が活発化していた2019年6月に採取した噴気は,SO2/H2SおよびCO2/CH4の比が増加し,それ以前に採取された噴気と比べ,マグマ性成分の寄与が大きいことが示唆される一方,水の同位体比組成には,大きな変化は見られなかった.硫黄の同位体比から同位体平衡温度を見積もると,206度から258度と推定された.200度から260度の飽和水蒸気が,熱水系に存在し,地表に達するまでエンタルピーが保存されると仮定すると,地表では160度から186度の過熱蒸気になると計算される.この温度は,大涌谷の噴気温度の上限とよく一致している.立山地獄谷は,2019年9月に火山ガスおよび温泉水を採取し,水・硫黄の同位体比と化学組成を測定した.その結果,噴気の一部は100度の同位体分別を受けたものと,より高温でマグマ水と天水が分離したものの2種類あることがわかった.温泉水は,Clが極端に多い温泉水が存在し,気液分離の影響を受けていると示唆される.また,温泉水の一部は,Clがほとんど含まれずSO4主体の温泉で,これらの温泉水の水の同位体比は,マグマ水の同位体比に近い値から,天水の同位体比の値まで示す.また,ClとSO4の濃度が1対1に近いトレンドを持つ温泉水が湧出し,地獄谷の温泉水は大きく3つにわけることができた.
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