研究実績の概要 |
本研究は, 太陽観測衛星「ひので」が取得する偏光分光観測データを用いて, 太陽表面対流による磁気流体波の駆動機構を同定することを目指したものである. 磁気流体波の駆動現場を特定するには, 微細スケールで生じているガス運動と, そのガス運動が磁束管へもたらす作用を捉えることが必要である. 一方, 既存の望遠鏡・観測機器の空間分解能ではそれらを捉えることが不十分であった. そこで本研究では, 観測機器の結像性能を補正するアルゴリズムを独自に開発し, 高空間分解な偏光分光観測データの取得を目指す. 本研究によって開発した結像性能補正技術の妥当性を検証するため, ドイツ/マックス・プランク研究所に滞在し, 共同研究を実施した. 本研究機関は, 太陽表面大気の磁気流体計算および輻射輸送計算において第一線の研究実績を有している. 太陽大気の撮像偏光分光プロファイルをリアリスティックに模擬したデータに結像性能補正技術を適用したところ, 課題であったノイズ増幅の影響を抑制しながら偏光分光データを復元することに成功した. さらに, 結像性能補正技術によって復元した偏光分光プロファイルから太陽表面大気の物理量を診断したところ, 2,000[G]程度の強い磁場領域が至るところに存在することを示した. 上記の結像性能補正技術に加え, とりわけ磁束管への作用をもたらすガス運動(太陽表面に水平方向に流れるガス運動)を高精度に導出する方法を新たに考案した. 標準的な手法と比較し, 最大で20%精度良く推定できることを確認した. 以上のように磁気流体波の駆動現場を捉えるためにクリティカルとなる物理量の診断手法を開発することに成功した. 今後, 磁気流体波現象に限らず, 対流運動を起源とする様々な太陽大気中の物理現象の解明に応用していく予定である.
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