本年度は、基板として形状記憶ポリマー(Shape Memory Polymer: SMP)を用いて貼付型熱伝導率計測デバイスの作製を試みた。昨年度に検討していたSBSナノシートを基板とした計測デバイスは、サンプルに貼り付けるまでは3ω測定用の金属細線パターンの断線や抵抗値変化が生じることはなかったが、測定後にサンプルから剥離することは困難であった。一方で、SMPは温度変化により状態が変化するため、複数回の仕様が可能となる可能性がある。具体的には、ガラス転移温度以下の場合はGlass stateを取り硬化するため貼り付け状態を維持できるが、ガラス転移温度以上となるとRubber stateとなり軟化するために剥離可能となる。本研究では、Tg = 55℃のポリウレタン型SMPを用いて検証を行った。また、3ω測定用の金属細線パターンはフォトリソグラフィにより形成した。その結果、複数回利用可能な貼付型熱伝導率計測デバイスの実現に成功した。しかしながら、昨年度のSBSナノシートを用いたデバイスと同様に、熱伝導率計測結果としては若干低い値となってしまった。 本年度は上記の実験に加え、本手法による熱伝導率計測結果が過小評価されてしまう原因について数値解析を用いて検証した。ここで過小評価の原意としては、基板の高分子薄膜の熱抵抗と、高分子薄膜とサンプルとの間の界面熱抵抗の2つが考えられる。計測時の状態を再現した数値解析モデルを形成し、有限要素解析を行った結果、後者の界面熱抵抗が過小評価の主な原因であることが示唆された。より具体的には、高分子極薄膜内部での熱浸透深さを検証した結果、1kHz程度の周波数においても10μm以上の深さとなることが示された。この結果はサンプルに対して熱が十分に浸透していることを示しており、基板の熱抵抗よりも界面熱抵抗が結果に影響していることを示唆している。
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