研究課題/領域番号 |
18H05897
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
秋田 時彦 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任上級研究員 (20564579)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | ミリ波レーダ / 深層学習 / LSTM / CNN / クラス識別 / 形状推定 / 自動運転 / 駐車 |
研究実績の概要 |
現状の自動運転システムは悪天候下で機能不全に陥ることが課題の一つである。本研究の目的は、全天候で機能するミリ波レーダ(以下レーダ)によりこれを解消することである。走行環境の理解には、車や人などの移動体の検出及び種別と静止障害物の位置及び形状の情報が必要である。本研究ではこれらを対象として深層学習技術等を駆使して、低分解能と反射不安定性の課題の解決を行った。 評価用レーダを用いて移動体の識別を行った。駐車場の空スペースにて車、自転車、人を低速でジグザグに走らせ、レーダ反射波を計測し、11283組のデータセットを作成した。これに対して、反射強度のグリッドマップを入力特徴量として、学習させた双方向Long Short Term Memory (LSTM)を用いて識別を行ったところ、98.67%の高い精度が得られた。通常のLSTMを用いた場合、入力特徴量として反射マップの10次元形状特徴量と最大反射強度のみを用いた場合を比較し、性能が低下することを確認した。この学習した識別器にて、実際の信号交差点での横断歩行者に対して識別評価を行った結果、58データに対して全て正しく識別できた。 駐車場及び路上縦列駐車における障害物の形状復元を行った。障害物は並列及び縦列駐車車両、縁石、フェンスとした。実環境で計測を行い、レーダ反射波を蓄積し、全676枚の蓄積反射マップを生成した。同時に計測したレーザレーダと画像から正解形状を生成し、これに対して独自に設計したConvolutional Neural Network (CNN)を用いて評価を行った。その結果97.44%の精度が得られた。駐車車両の新規の形状推定評価指標を定義し、近傍の車両輪郭の最大誤差平均7.3 cmが得られた。同じ条件で代表的従来手法のSegNet及びU-Netと比較し、独自設計した推定アルゴリズムが最も高精度であったことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、環境変動に頑健なミリ波レーダを用いて、自動運転のための走行環境理解に必要な移動体検出及び識別と静止物形状を推定することである。両機能に対して、シミュレーション及び実機評価を行い、新規の推定ロジックを構築し、良好な推定結果を得るに至った。さらに従来技術に対して精度が向上することを確認できた。 移動体検出及び識別に関して、シミュレーションによるアルゴリズムの基礎検討を行い、その後評価用レーダを用いて実験を実施した。駐車場空きスペースと公道交差点でのデータ計測を行い、正解値を付与して学習・評価データセットを生成した。そのデータセットに対して推定ロジック(LSTM)を学習及び評価し、高精度に推定できることを示した。さらにアルゴリズム及び入力特徴量の違いによる推定精度への影響も示した。この結果を学内公開イベント3件及び国内学会2件、国際学会3件発表し、技術雑誌へ1件投稿した。 静止物形状の推定に関しても、シミュレーションによるアルゴリズムの基礎検討を行い、その後評価用レーダを用いて実験を実施した。最も静止物形状推定のニーズの高い駐車場の並列駐車と公道の縦列駐車でのデータ計測を行い、レーザレーダとカメラによる正解値半自動生成手法を構築して正解値を付与し、学習・評価データセットを生成した。これに対して、独自開発した畳み込みニューラルネットワークを学習・評価し、実用的な精度で推定できることを示した。さらに従来手法との定量化比較を行い、優位性を示すことができた。さらに駐車車両の形状推定評価指標も新たに定義し、直感的に分かりやすい評価値にて比較評価した。この結果を学内公開イベント3件及び国際学会1件発表した。さらに技術雑誌及び国際学会への投稿を行っており、次年度に公開及び発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
速度計測及び検知距離の拡張など性能改良した最新ミリ波レーダを入手し、各種推定ロジックを改良していく。現状の評価レーダでは速度情報が計測できなかったため、速度情報も併せて利用することで、物体識別において推定精度がさらに向上するものと考える。また、検知距離が長くなることで、ノイズが多くなることも予想されるが、その場合の対策も行っていく。これらの改良により、実際の公道での複雑な条件での評価を追加し、実用化課題を抽出し対策していく。 公道評価を通して、ミリ波レーダだけでは実現できない検出対象物や条件を明確化し、カメラやレーザレーダなど他のセンサで最適に補完するセンサフュージョンロジックを構築していく。 本研究では、主に教師あり学習の枠組みで機械学習を用いて推定ロジックを構築したが、学習データを計測した環境と大きく異なる環境での性能が保証できない。いわゆる本質的な汎化性の問題がある。また、正解値を生成するコストが大きいと言う課題もある。そこで、いくつかのアプローチでこの汎化性を改良し、少ない計測データで未知の環境でも推定に破綻の無い頑健なロジックを基礎から立ち返って研究していく。その一つは、検出対象物の特性は走行環境に限定すれば既知であるため、その特性をモデル化して、その制約の下で学習を行う方向が考えられる。これはいわゆるモデルベースと機械学習の融合である。これは与えたモデルから逸脱することはないため、推定が破綻することは無い。もう一つは、走行環境における検出対象物の普遍的情報はインターネットのデータとして大量に保存されていることから、これを最大限に活用する方向がある。この大量のデータからその検出対象物の普遍的な特性を抽出し、これを用いて頑健な推定を実現する。これは転移学習及びメタ学習の枠組みであり、将来的にはミリ波レーダのための認識に留まらず普遍的なアルゴリズムへ発展させていく。
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