研究課題/領域番号 |
19K21072
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
秋田 時彦 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任上級研究員 (20564579)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミリ波レーダ / 深層学習 / LSTM / CNN / VAE / クラス識別 / 形状推定 / 駐車 |
研究実績の概要 |
現状の自動運転システムは悪天候下で機能不全に陥ることが課題の一つである。本研究は、全天候で機能するミリ波レーダ(以下レーダ)によりこれを解消することを目的とする。深層学習技術等を駆使して、下記の通り低分解能と反射不安定性の課題を改善した。 評価レーダを用いて移動体の識別を行った。駐車場にて車、自転車、人を低速で走らせ、レーダ反射波を計測し、11283組のデータセットを作成した。これに対して、反射強度のグリッドマップを入力特徴量として、双方向LSTMを用いて識別を行い、98.7%の高い精度を実現した。従来LSTMと他の入力特徴量との各種組合せと比較し、提案手法が最も精度が高いことを確認した。駐車場のデータセットで学習した識別器にて、公道の信号交差点の横断歩行者に対して評価を行い、正しく識別できることを確認した。 駐車場及び路上縦列駐車における駐車車両、縁石、フェンスなどの障害物の形状復元を行った。実環境で計測し、676枚のレーダ反射波蓄積反射マップを生成した。同時に計測したレーザレーダと画像から正解形状を生成し、独自設計したCNNを用いて評価を行った。その結果97.4%の精度が得られた。駐車車両の形状推定評価指標を新しく定義し、近傍の車両輪郭の最大誤差平均7.3 cmが得られた。代表的従来手法と比較し、独自設計したCNNが最も高精度であった。 上記の駐車車両の形状推定において、未学習のデータでは形状変形が生じた。これに対し、車両形状のパラメトリックモデルを構築し学習させた結果、形状変形は解消できた。しかし、位置誤差が生じたため、推定結果の信頼度を深層学習にて推定し、演繹手法により補正する方法を創出し、最大誤差39.0cmを23.3cmに誤差低減できた。信頼度推定手法は、反射マップと推定結果をCNNで学習するモデルと学習した反射マップ自体をVAEにて自己教師学習するモデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、悪天候にも頑健なミリ波レーダを用いて、自動運転のための走行環境理解を行うことである。シミュレーション及び実機評価を行い、深層学習を活用した新規の推定ロジックを構築し、良好な推定結果を得るに至った。さらに従来技術に対して精度が向上することを確認できた。 移動体検出及び識別に関して、シミュレーションによるアルゴリズムの基礎検討を行い、その後評価用レーダを用いて実験を実施した。駐車場と公道交差点でのデータ計測を行い、正解値を付与して学習・評価データセットを生成した。これに対して推定ロジック(双方向LSTM)を学習及び評価し、高精度に推定できることを示した。さらにアルゴリズム及び入力特徴量の違いによる推定精度への影響も示した。 静止物形状の推定に関して、シミュレーションによるアルゴリズムの基礎検討を行い、その後評価用レーダを用いて実験を実施した。静止物形状推定のニーズが高い駐車場の並列駐車と公道の縦列駐車でのデータ計測を行い、レーザレーダとカメラによる正解値半自動生成手法を構築して正解値を付与し、学習・評価データセットを生成した。これに対して、独自開発した畳み込みニューラルネットワークを学習・評価し、実用的な精度で推定できることを示した。さらに従来手法との定量化比較を行い、優位性を示すことができた。さらに駐車車両の形状推定評価指標も新たに定義し、直感的に分かりやすい評価値にて比較評価した。 上記の駐車車両形状推定における未学習データに対する形状変形の課題に対して、パラメトリックモデルを創出して形状変形を解消した。さらに残存する位置誤差に対して、推定結果の信頼性推定・誤差修正手法を構築し、誤差を低減した。 上記成果を、下記「研究発表」欄に記す通り多数発表した。これ以外にも、学内イベント6件、欧州および米国の学術イベントにて7件発表を行った。さらに次年度にも数件発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
公道計測データを増やし、そこで現れる検出対象物をシーンに対応して増やして、実環境におけるシーン復元の課題を抽出する。それに対してアルゴリズムの改良を行い、ミリ波レーダによる検出対象物や条件など走行環境認識の限界を明らかにする。将来的にはカメラやレーザレーダなど他のセンサで最適に補完するセンサフュージョンロジックを構築していく。 速度計測及び検知距離の拡張など性能改良した最新ミリ波レーダを入手し、各種推定ロジックを改良していく。現状の評価レーダでは速度情報が計測できなかったため、速度情報も併せて利用することで、物体識別において推定精度がさらに向上すると予想される。このレーダを用いて実際の公道での複雑な条件での評価を追加し、実用化課題を抽出し対策していく。ただし、現状では今年度に間に合うか未定であり、将来的な計画である。 本研究では、主に教師あり学習の枠組みで深層学習を用いて推定ロジックを構築したが、学習データを計測した環境と異なる環境での性能が保証できない。いわゆる本質的な汎化性の問題がある。この課題に対して、車両の形状モデルを利用したモデルベースと機械学習の融合アルゴリズムを構築して評価したが、この枠組では限界があることも分かってきた。また、正解値を生成するコストが大きいと言う課題もある。これらに対して、走行環境における検出対象物の普遍的情報はインターネットのデータとして大量に保存されていることから、これを最大限に活用する方向性を検討する。この大量のデータからその検出対象物の普遍的な特性を抽出し、これを用いて頑健な推定を実現する。これは転移学習及びメタ学習の枠組みであり、将来的にはミリ波レーダのための認識に留まらず普遍的なアルゴリズムへ発展させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での国際学会にて発表する予定だったが、新感染症のためにオンライン会議となり、渡航費用が必要なくなったため差異が生じた。2021年度に国際学会にて発表する予定で、その渡航費用に充てる。もしオンラインとなった場合は、参加登録費として使用し、残りに関しては実験用の追加センサを購入する予定である。
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