研究課題
小惑星の重力は小さくまた重力場が歪であるため,小惑星近傍では力学的に外乱の強い環境(強摂動環境)が形成され,探査機の軌道運動は強く乱される.本研究では,強摂動環境下でも燃料消費が少なくかつ自由度の高い安定な小惑星周回軌道として,1周に1回少量の速度変化を与えることで,人工的に周期性を持たせるRTO (Retrograde Teardrop Orbit) という周回軌道を考案・提案した.最終年度の研究では,前年度に構築したRTOの基礎理論に基づき,はやぶさ2の小惑星リュウグウ周回運用を行うためのRTOを設計した.具体的には,RTOの設計自由度の高さを利用して,はやぶさ2ミッションにおける,発電や通信,科学観測といった種々の要求を満たすRTOを設計した.実際に,本研究を通じて,設計した周期3日のRTOを用いて,リュウグウ近傍を多周回する計画を立案した.ミッション期間の制約のため,RTOの実用には至らなかったが,小惑星近傍での運用手法の選択肢を増やすことに貢献した.加えて,本研究で構築した反復的数値計算とリュウグウ重力場モデルとを応用して,はやぶさ2の着陸軌道を設計した.はやぶさ2では,リュウグウの岩塊が多かったために,誤差3 mの高精度着陸が要求された.本年度の研究によって設計された着陸軌道を用いて,はやぶさ2は2019年2月と7月に2回リュウグウに着陸した.また,フライトデータを用いた事後解析から,2回の着陸運用における着陸誤差がいずれも1 m以下であることが判明し,本研究の有用性が示された.
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究として計画していた通り,RTOを用いた,はやぶさ2のリュウグウ周回運用の計画を完遂できた.具体的には,はやぶさ2ミッションにおける,発電や通信,科学観測といった種々の要求を満たすRTOを設計した.また,実運用を想定して,種々の誤差が生じた場合の軌道修正のための制御法も合わせて考案し,実運用の計画として策定することができた.当初計画では,RTOによる周回を実用することで,実際の小惑星環境でのRTOの性能を事後評価する予定であった.しかし,はやぶさ2での周回運用は実現されなかったため,RTOの実環境での評価は未達成である.一方で,本研究の応用によって,はやぶさ2の着陸軌道が設計できることを見出し,実際にリュウグウへの高精度着陸を実現させることができた.この点については,当初の計画以上の進展と言える.以上より,総合的に本研究はおおむね順調に進展している,と考える.
2018年度と2019年度の研究をもって,当初計画していたRTOに関する基礎理論の構築とその応用手法の確立は完遂できたと考えている.唯一,未達成だった項目は,RTOの実小惑星環境での実用とその事後評価であり,はやぶさ2の延長ミッションなど今後の小惑星探査ミッションの機会に実施したいと考えている.その他,今後の研究内容としては,RTOの理論を「はやぶさ2-リュウグウ」とは異なる探査機-小惑星系に応用した場合に,RTO軌道群の性質がどのように変化するかを解析していきたい.
前年度の研究進行に遅滞があったため(事由:「研究方式の決定の困難」),本年度の研究が計画通りに進行せず,次年度使用額が発生した.具体的には,本研究をまとめた論文を学会発表した後に,さらに学術雑誌に投稿する予定であったが,学会発表の時期が遅れたために,学術雑誌への投稿が未完である.したがって,次年度には,繰越分の研究費を,論文投稿に伴う英語校正等に使用する予定である.
すべて 2019
すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)